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第360話
俺はコーヒーとケーキが乗ったトレイを持って皆のところに行く。
「お待たせしました」
そう言って俺はそれぞれに頼んだものを、皆の前に置いていく。
「そのチョコレートケーキと紅茶は?」
と秋哉が聞いてきた。
「……皆と食べておいでって高橋さんが」
そう言うと、秋哉は『そっか』と言って空いてる席の椅子を引いて座るように促してきた。
俺は本当に良いのかなと思って、座る事を躊躇する。
「ほら、早く座らないとコーヒーとか冷めちゃうよ?」
そう言って、秋哉はニコッと笑う。
見ると先輩たちも俺が座るのを待ってるみたいで、誰もケーキとコーヒーに手を着けていない。
じっと見てくる先輩たちに、待っててくれてるんだと分かって俺は慌てて席についた。
「じゃあ、いただきまーす!」
俺が席についた瞬間、宮藤先輩がそう言ってパフェに食らい付いた。
それに続いて日向先輩も『いただきます』と言って、ケーキに手を伸ばした。
「私のカフェオレも中村くんが淹れてくれたんだよね?」
そう言いながら先輩はカップを手に取る。
「……美味しくなかったらすいません」
そう言って俺はドキドキしながら先輩がカフェオレを飲むのを見守った。
先輩は一口飲むと、ホゥと息を吐く。
「うん、美味しいよ」
そう言って先輩はニコッと笑う。
俺はホッとした。
次は佐倉先輩だった。
佐倉先輩は高橋さんのコーヒーを飲み慣れてるからすごく心配だ。
俺は先輩が飲むのを固唾を飲んで見守った。
先輩が一口飲むと、黙ってしまった。
………美味しくなかったかな?
そう思うと不安になってくる。
俺が先輩を見てると、いつの間にか皆の視線が佐倉先輩に向いていた。
「うん、良いんじゃないか。確かに叔父さんのコーヒーとは違うけど、中村が淹れたコーヒーも美味しいよ」
そう言って先輩が笑った。
俺は緊張の糸が切れて、体の力が抜けて項垂れてしまった。
そんな俺を見て、秋哉がクスクスと笑う。
「ほら、緋桜もケーキ食べな。せっかく高橋さんが用意してくれたんだから」
そう言って秋哉は俺の頭に手を置いた。
俺はフォークを持つと、チョコレートケーキを一口食べた。
その瞬間、口の中にチョコレートのほろ苦い味が広がる。
「…美味しい」
そうポロっと口に出すと、何故か皆が笑った。
何で皆が笑ってるのか分からないけど、俺もそれに釣られて無意識に笑っていた。
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