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第368話

(高橋side) スタッフルームから大きな音が聞こえた瞬間、木崎くんの顔が険しくなった。 スタッフルームには青木くんと緋桜くんがいる。 二人に何かあったのか。 木崎くんと二人でスタッフルームのドアの前まで来ると、木崎くんがドアを開けてくださいと言ってきた。 多分、自分は部外者だから勝手に開けるのは良くないと思ったんだろう。 緋桜くんの事が心配で、すぐにでも駆けつけたいだろうに。 まだ冷静さは保ってるみたいだ。 ドアを開けると、目に飛び込んで来たのは困惑した表情で立ってる青木くんと、その視線の先に踞ってる緋桜くんの姿。 木崎くんがすぐさま踞ってる緋桜くんに駆け寄る。 木崎くんが何度緋桜くんの名前を呼んでも反応がない。 緋桜くんは震えて、目に涙を溜めながら荒い呼吸は繰り返している。 何かの発作なのか…… でも木崎くんは落ち着いてるように見える。 この状況に慣れてるのか? ここは下手に手を出すよりも、木崎くんに任せた方が良いのかもしれない。 そう思って俺は、事の成り行きを見守った。 木崎くんが手を伸ばすと、緋桜くんはその手を払い除ける。 それには木崎くんもちょっと戸惑ったみたいだ。 その後、緋桜くんは気を失ったように倒れて、それを木崎くんが抱き留めた。 木崎くんは気を失った緋桜くんを抱き締めて、青木くんに『緋桜に何した?』と問いかける。 その声はひどく冷やかで、俺が問われてる訳じゃないのに俺まで背筋に悪寒が走った。 それを直接向けられてる青木くんはたまったものじゃないだろう。 青木くんを見ると、その顔は青ざめてる。 ここからは木崎くんの表情は見えないけど、流石にこのままでは不味いと思った。 「それよりも今は緋桜くんを病院に連れていこう」 そう言って俺は木崎くんの肩に手を置いた。 多分、今の木崎くんは頭に血が昇ってる。 このまま放っておいたら喧嘩になると思って、とばっちりを覚悟で木崎くんに声を掛けた。 でも木崎くんは意外にもそれで落ち着きを取り戻したみたいだった。 人の話を聞く理性はまだ残ってたみたいで、俺はホッと息を吐いた。 木崎くんは大きく息を吐く。 「……すいません」 そう言って謝る木崎くんの目は、怒りは残ってるもののいつも通りに戻ってる。 「今救急車を呼ぶよ」 そう言って俺は立ち上がった。 「いや、大丈夫です」 電話をするために携帯を取りに行こうとすると、そう言って木崎くんに止められた。 「外に迎えが来てるので、救急車よりそっちの方が早いです」 そう言って木崎くんに気を失っていてる緋桜くんを抱きかかえた。 救急車の方が優先的に診てもらえるけど、このまま病院に飛び込んでも気を失っていてる緋桜くんを見て、病院の医師たちも流石に放ってはおかないだろう。 「……うん分かった、俺も後で病院に向かうから」 そう言うと木崎くんは頷く。 俺は取り敢えず連絡先を教えてもらって木崎くんたちを見送った。 木崎くんが出てってことで青木くんと二人になった。 スタッフルームは沈黙に包まれた。 「……さて、何があったのか教えてくれるかい?」 そう言って沈黙を破って青木くんに問いかける。 木崎くんは何があったのか察しが付いてたみたいだけど、俺にはさっぱりだ。 でも木崎くんの反応からして、青木くんが緋桜くんに対して何かしたのは間違いじゃない。 そう思って聞いてみたけど、青木くんは一向に話してくれなかった。

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