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第371話

(青木side) マスターが中村の事を教えてくれた。 あいつが元々対人関係に問題があること。 必要以上に触られるのが苦手らしいこと。 マスターの甥が極度の人見知りだって言ってたらしいけど、他にも原因があるっぽいこと。 マスターも詳しい事は聞いてないから分からないらしいけど、それは間違いないと言った。 今考えてみたら思いあたる節はたくさんあった。 マスターはもちろん、木崎や回りにいた奴らもその一線は越えないようにしてた。 俺は我を忘れて、その線を越えてしまった。 今さら後悔しても遅い。 「……俺、木崎に笑い掛けるあいつを見て、どうして俺にはって思った。あいつには笑い掛けるのにどうして俺には怯えるんだって………そう思ったら、感情が押さえられなくて……」 そこまで言うと、ポンと頭に手が置かれた。 「君は、本当に不器用だね」 そう言ってマスターはニコッと笑う。 「緋桜くんは確かに君に怯えていたけど、君と仲良くしようと頑張ってたんだよ」 『緋桜くんから何度も相談を受けた』とマスターは言う。 確かにあいつは怯えていたけど、俺に近付こうとしてた。 俺の事が怖いなら離れればいいのに、何度も話し掛けてきたり…… 俺はそれに気付けなかった。 「嫉妬は視野を狭めるからね。気持ちが押さえられなくて、気付いた時には全て失ってる事もあるんだよ」 そう言うマスターはどこか寂しそうな目をする。 「………マスターもそういう経験があるんですか?」 「…君たちよりは長く生きてるからね」 そう言ってマスターは少し寂しそうに笑う。 「…………謝れば、何とかなりますか?」 俺がそう聞くと、マスターは考え出す。 「どうだろうね、木崎くんは分かってくれるかもしれないけど、緋桜くんの方がどうか………」 『取り敢えず話をしてみなくちゃね』とマスターが言って、俺は頷くしか出来なかった。

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