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第372話

(秋哉side) 俺は携帯を確認すると、自然とため息が出た。 「どうかしたんですか?」 俺がため息をついた事で何かあったのかと思ったのか、佐々木が神妙な面持ちで聞いてくる。 「高橋さんがここに来るって……青木も連れてくるらしい」 「……大丈夫なんですか?」 それは緋桜に対してなのか、俺に対してなのか。 「俺はまぁ………落ち着いたけど、緋桜がどういう反応をするか……」 青木が緋桜に何かしたのは間違いないけど、実際何をしたのか分からない。 ただ、あの様子からしてかなりの精神的ショックを受けてるに違いない。 『再発』 さっきから頭に浮かんでる。 そんな事ないって、大丈夫って自分に言い聞かせても不安が消えない。 嫌な予感が消えない。 「取り敢えず、青木と話すよ」 そう言うと佐々木はコクンと頷く。 「分かりました。でも落ち着いてくださいね」 「俺は落ち着いてるけど?」 そう言って俺は首を傾げた。 そんな俺を見てため息をついたかと思ったら、佐々木は突然俺の頭に手を置いた。 「青木を目の前に暴走して、俺の手を煩わせるなって言ってるんだよ」 ついさっきまで営業口調だった佐々木が素の口調で話す。 それには俺もちょっと驚いた。 「暴走したお前の止めるのは一苦労だからな」 佐々木は『それだけは勘弁してほしい』と言ってニッと笑った。 俺もそれに釣られて思わず笑ってしまった。 「善処するよ」 そう言うと佐々木は『本当に頼むぞ?』と言って何度も念をおされた。 俺が不安なのに気付いて、佐々木なりに気を使ってくれたんだろう。 そのお陰でさっきまでの不安が和らいでる。 でもその不安が消えたわけじゃない。 頼むから、早く目を覚まして。 そう思って、俺は緋桜が眠る病室の扉に視線を向けた。 しばらくして高橋さんから病院に到着したと連絡が入った。 俺と佐々木は高橋さんを迎えるために一階の入り口まで移動した。 少し待ってると高橋さんと、その後ろから青木が院内に入ってくるのが見えた。 高橋さんも俺たちに気付いてこっちに向かってくる。 「木崎くん、緋桜くんの様子は?」 「まだ目覚めてません」 俺がそう言うと、高橋さんは『そっか』と言って息を吐いた。 俺は高橋さんの後ろにいる青木に視線を向けると、青木と目が合った。 その瞬間、青木が微かにたじろぐ。 すぐ後に佐々木に背中を少し強めに叩かれた。 何するんだと思って佐々木を見ると『睨みすぎ』と耳打ちされた。 どうやら無意識に青木を睨み付けてたみたいだ。 落ち着いたと思ってたけど、実際はそうじゃなかったらしい。 俺はため息をついて二人から少し距離をとった。 「初めまして、佐々木玄斗と言います」 俺が距離をとったのを見計らって佐々木が高橋さんに自己紹介をする。 「高橋一真です。いつも木崎くんと緋桜くんを迎えに来てる方ですよね。姿だけは拝見してます」 そう言って高橋さんはニコッと笑う。 その瞬間、何故かほんわかと和やかムードが漂ってきた気がした。 「来て早々で申し訳ないですが、お話を伺っても?」 そう言って佐々木が青木に視線を向けた。 さっきまでの和やかムードが一変して緊張感が走る。 青木も若干顔を引き吊らせていた。 俺たちは院内にある談話室に移動した。 談話室には入院中の患者らしき人が数人と、お見舞いに来た人らしき人が数人いた。 俺たちは人気の少ない角の席に座った。 そのすぐ後に佐々木が飲み物を買ってくると言って席を立つ。 俺も手伝うと言うと佐々木は一人でも大丈夫って言った。 でもさすがにこの状況で高橋さんと青木と待ってるのは気まずい。 そう思って俺は無理に佐々木についていった。 佐々木もそれを察したのか、その後は何も言わなかった。

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