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第381話
(秋哉side)
俺は緋桜の病室の前まで来ると、深く深呼吸をした。
「…緋桜」
緋桜の名前を呼んで病室のドアをノックする。
しばらく待ってみるけど、緋桜からの返事はなかった。
「緋桜、入るよ」
そう言って俺は病室の中に入った。
病室に入るとベッドの布団が盛り上がっていて、緋桜が潜り込んでる。
「緋桜」
寝てるのかと思って、少し近付きながら名前を呼ぶとビクッと布団が動く。
俺はそこで足を止めた。
「緋桜、話があるんだ」
そう言っても緋桜は反応しない。
俺は小さくため息をついた。
「…明日、ゆかりさんと優さんが来る。緋桜は明日、二人と一緒に帰るんだ」
そう言うと、ようやく緋桜が顔を出した。
「……どういう、こと?」
緋桜が不安そうな視線を向けてくる。
泣いたんだろう、緋桜の目が腫れている。
「医者から明日退院しても良いって許可が出た。明日ゆかりさんたちが迎えに来る。緋桜は二人と実家に帰るんだ」
「……何で…?」
緋桜が更に不安そうにする。
「実家の方が緋桜も落ち着けるだろ」
「…秋哉は?秋哉も一緒……?」
「………俺は行かない」
そう言うと、緋桜の目からボロボロと涙が流れた。
「………いやだ、帰りたくない」
そう言って緋桜は首を振る。
「今の緋桜は俺に怯えるでしょ?」
そう言うと、緋桜はまた首を振る。
俺はそんな緋桜に手を伸ばした。
それに気付いた緋桜の体が跳ねる。
俺はそこで手を止めた。
「ほら、震えてる」
緋桜は更に涙を流した。
本当は今すぐにでも抱き締めたい。
でも今はそれは出来ない。
そう思って俺はグッと拳を握った。
「ゆかりさんと優さんならきっと大丈夫。あの二人なら緋桜も平気だと思うから」
緋桜は涙を流したまま動こうとしない。
俺は少し息を吐く。
「今日はもう遅いから、詳しい話は明日ゆかりさんたちが来てからにしよう」
そう言って俺は病室を出ようとした。
「秋哉!」
そうな俺を緋桜は名前を呼んで引き止める。
振り返ると緋桜は不安げに見つめる。
俺は出来る限り笑顔を作った。
「大丈夫だよ、緋桜は何も心配しなくていい」
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