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第385話
目が覚めると、昨日泣いたせいか少し頭が痛かった。
時計を見ると9時を過ぎている。
秋哉が、今日母さんたちが来ると言ってた。
俺を実家に連れてくために迎えに来るって言ってた。
俺がこんなことなったから……
そんな事を考えていると、コンコンとノックが聞こえた。
返事をすると看護師の人が入ってきた。
「気分はどうですか?」
「………大丈夫です」
そう答えると看護師さんは『分かりました』と言って出ていってしまった。
俺が触られるのが駄目だから、看護師さんが来ても一定の距離を保って接してくる。
必要最低限の言葉を交わしてすぐに出ていってしまう。
すぐに一人になってしまう。
……寂しい。
一人になるなんて今までだって沢山あったのに、こんなに寂しいなんて思わなかった。
いつも先輩たちや佐々木さん、 秋哉が側に居てくれたから。
もうどうやって一人で過ごしてたかなんて覚えてない。
……もう、一人はやだよ。
「…秋哉」
秋哉のことを思うと、また涙が出てきた。
しばらくして、またドアがノックされた。
返事をして入ってきたのは、父さんと母さんだった。
「緋桜、大丈夫?」
母さんが心配そうに聞いてくる。
父さんも心配そうに見てきた。
でも父さんも母さんも俺に触れるか触れないかの距離を保ってる。
二人とも俺が今どんな状態なのか知ってるんだ。
母さんと会うときはいつも頬に触れてくれた。
父さんもいつもは肩に触れて笑ってくれた。
でも今日はそれがない。
嫌だ。もう一人は嫌だ。
そう思って、俺は二人に手を伸ばした。
俺が伸ばした手を二人は戸惑った顔で見る。
…………もう、俺には触れてくれないのかな。
そう思って、俺は伸ばした手を下ろそうとした。
その瞬間、突然手を握られた。
諦めて下ろそうとした手を突然握られて、俺は一瞬驚いてしまう。
見ると母さんが俺の手をギュッと握っていた。
その後で父さんも手を重ねてくる。
さっきまで冷たかった手がほわっと温かくなった。
二人を見ると、父さんと母さんは笑いかけてくれた。
俺は堪らなくなって二人に抱き付いて泣いてしまった。
父さんと母さんは俺が泣いてる間、ずっと抱き締めてくれてた。
しばらく泣いて、落ち着くと二人から少し離れる。
でも手は握ったままだ。
「緋桜、話は聞いたよ」
父さんが少し屈んで俺に目線を合わせてそう言う。
「今の緋桜を一人には出来ない。緋桜はどうしたい?」
多分これは家に帰るのかどうかを聞いてるんだ。
俺は秋哉をチラッと見る。
秋哉は病室の入り口に居て、俺の側に来ようとはしない。
秋哉の側にいたい。
秋哉と帰りたい。
……でも、秋哉はそれを望まない。
「……父さんたちと、帰る」
「本当にそれでいい?」
その聞かれて、俺は小さく頷いた。
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