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第386話
(秋哉side)
ゆかりさんと優さんに泣き付く緋桜を見て少し安心した。
大丈夫って確信はあったけど、どこか不安もあった。
もしあの二人でもダメだったら、緋桜の側にいられる人が居なくなってしまう。
俺は出来ないけど、緋桜を一人にはしたくなかった。
「大丈夫そうですね、良かったです」
と緋桜の担当医が言う。
「………そうですね」
緋桜は優さんに聞かれて『父さんたちと帰る』と言った。
俺がそうなるようにした。
これが今の緋桜にとって一番良いことだから。
でも緋桜が帰ると言った瞬間、胸が締め付けられた。
心のどこかで、緋桜は実家に帰ることを拒否するんじゃないかって思った。
こんな事を思うなんて、自分勝手だってのは分かってる。
それでも緋桜の側に居たい。
そう思って、俺は無意識に拳を握り締めた。
「……大丈夫ですか?」
緋桜の担当医にそう聞かれる。
「………なんで皆、同じ事を聞くんですか?」
昨日から皆同じ事を聞く。
人の顔を見る度に『大丈夫か』と聞いてくる。
「それは皆さんがあなたの事を心配してるからですよ」
「……俺の心配より、今は緋桜の方でしょ」
そう言うと、担当医は困ったように笑う。
「私からしてみたら、今は中村さんよりあなたの方が心配になります」
「………俺は大丈夫ですよ」
そう言って俺はその場を離れた。
俺は大丈夫。
今は緋桜の方が大変なんだ。
今は俺の事なんてどうでもいい。
なのになんで皆して。
「くそっ!」
俺は無性に腹が立って、壁を殴り付けた。
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