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第388話

(佐々木side) 緋桜くんの退院の手続きをしてるときに、ゆかりさんが話し掛けてきた。 ゆかりさんは秋哉の目が光を失ってると心配していた。 それは俺も気になっていた。 秋哉は誰かと話してる時はちゃんと受け答えをするけど、それ以外の時は心ここにあらずでどこか虚ろな目をしていた。 俺はこんな秋哉の姿を知っている。 秋哉が中学のころ、社長が秋哉の友達に圧力をかけはじめた。 そのせいで次々に友達が離れていった頃の秋哉もあんな目をしていた。 何を考えてるのか分からなくて、何をするのか分からなくて、すごく危うい。 それを知っているからこそ、すごく心配になる。 緋桜くんもだけど、このままだと秋哉も壊れてしまうんじゃないかと思ってしまう。 取り敢えず二人とも話し合って、お互い何かあったらすぐに動けるようにしてしばらく様子を見ることになった。 緋桜くんの退院の手続きが整って、緋桜くんが帰る時も秋哉は姿を現さなかった。 「……佐々木さん………秋哉は?」 少し離れた位置から緋桜くんが遠慮がちに聞いてきた。 これはどう答えたら良いんだろう。 もしかして秋哉は本当に見送りに来ないつもりなのか。 そんな事を考えていると、緋桜くんが俯いてしまう。 「………俺、秋哉に嫌われちゃったかな?」 「それはない」 緋桜くんの問いに即座に答えたら俺に、緋桜くんは驚いた顔をする。 「秋哉が緋桜くんを嫌いななることなんて絶対にないよ」 「……でも俺、秋哉のこと避けて……」 「確かに緋桜くんに拒否されてショックだったと思う。秋哉自身、まだ心の整理が出来てないんだよ。落ち着いたら秋哉から会いに行くから、それまで待っててあげてほしいんだ」 そう言うと、緋桜くんは小さく頷いた。 緋桜くんたちを見送った後、俺は秋哉のところに向かった。 居そうな場所に心当たりがあった。 それは昨日秋哉がいた場所。 中庭の木の根元。 中庭につくと、昨日の夜とは違って疎らではあるけど人がいる。 木の根元を見ると、また秋哉が膝を抱えて踞っていた。 「秋哉」 声を掛けると秋哉が顔を上げる。 「緋桜くんたち帰ったよ」 そう言うと、秋哉はまた俯く。 「見送らなくて良かったのか?」 「………緋桜を笑顔で送り出す自信がない」 秋哉がボソッと呟く。 「離れるのが嫌なら引き止めれば良かっただろ?」 俺がそう言うと、秋哉は首を振る。 「俺が側に居ると緋桜の負担になる」 『緋桜の負担にはなりたくない』と秋哉は言った。 俺は大きくため息をついた。 「お前らは、二人とも不器用すぎ!」 そう言って秋哉の頭をワシャワシャと撫でると秋哉は驚いた顔をする。 そのマヌケな顔に思わず笑みが溢れた。 「緋桜くんも秋哉の事を気にしてたから、心の整理がついたらちゃんと会いに行ってやれ」 そう言うと、秋哉は小さく頷いた。

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