417 / 452
第413話
「俺が淹れたコーヒーって……でも、道具も何も無い」
そう言うと、秋哉と佐々木さんが顔を見合わせて笑う。
すぐ後に佐々木さんがキッチンを出ていった。
俺は訳が分からなくて首を傾げた。
「……秋哉?」
「ちょっと待ってて」
俺が声を掛けると、秋哉はそう言って笑うだけだった。
しばらくして、佐々木さんが箱を持って戻ってきた。
「はい、緋桜くん」
そう言って、その箱を手渡される。
俺は訳が分からないまま、箱を受け取った。
俺は秋哉をチラッと見る。
「開けてみて」
俺の視線に気付いた秋哉がそう言う。
俺は取り敢えず、その箱を開けてみた。
「え、これって……」
箱の中に入ってたのは、サイフォンやドリップ器具、他にもコーヒーを淹れるための機具が一通り入っていた。
「本当はもっと早く渡そうと思ってたんだけど、それどころじゃなかったから渡すタイミングが無くて」
そう言って秋哉が少し困ったように笑う。
「豆はこれを使って」
そう言って佐々木さんにコーヒー豆が入った袋を渡された。
豆の入った袋を開けてみると、よく知る香りが漂った。
「……この香り、もしかして高橋さんの?」
これはノワールで高橋さんがコーヒーを淹れる時に使ってた豆と同じ香り。
でもどうして?
「それは前日、高橋さんがお見舞いとして持ってきてくれたんだよ」
そう佐々木さんが言う。
「……高橋さんが?」
そういえば高橋さんとはあの日以来、連絡すらしてない。
「それを使って、コーヒー淹れてよ」
そう言う秋哉に、俺は頷いた。
ともだちにシェアしよう!