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第446話
緋桜が自室に戻った後、俺はシャワーを浴びながら気持ちが落ち着くのを待った。
あまりにも無防備にくっついてくる緋桜に、ちょっとしたイタズラだった。
警戒されるのもあれだけど、警戒されなさ過ぎも複雑だった。
緋桜は普段、俺がどれだけ我慢してるのか知らない。
緋桜を怖がらせないように、必死に触りたい衝動を押さえている。
でも緋桜が笑顔を見せる度、少し遠慮がちに触れてくる度に緋桜を押し倒してキスをしたい衝動に駆られる。
その度に、俺の中の理性が総動員されていた。
今回も、押し倒したのは突発的だった。
緋桜に触れられて、すり寄られて、気付いたら押し倒してた。
押し倒されて、驚いて戸惑ってる緋桜の顔を見て我に返った。
今回は押さえられたけど、次は押さえる自信がない。
そう思って、俺はため息をついた。
シャワーから上がって携帯を見ると、佐倉先輩から着信があったことに気付く。
俺が先輩に折り返し電話をすると、数コールで先輩が電話口に出た。
『もしもし』
「電話しましたよね?何かあったんですか?」
『いや、中村の事が気になってな』
「…………先輩のせいですよ」
俺は佐倉先輩に、帰ってきてからの緋桜の行動を話した。
それを聞いた先輩が電話口で爆笑していた。
『ははははっ!!何か行動に移すとは思ってたけど、まさかそう行くとはな』
「緋桜も何も言わずに行動に移すから、俺も訳が分からないんですよ」
『可愛いじゃないか』
「可愛すぎるんですよ」
そう言ってため息をつくと、先輩はまた笑う。
『まぁ、秋哉のノロケは良いとして』
そう言う先輩に『良いのかよ!?』と心の中で思わずつっこんでしまった。
『中村なりに一生懸命考えてやってるんだ。少しくらい大目に見てやれ』
「……それは分かってるんですけどね」
『何かあるのか?』
そう聞かれて、俺は黙ってしまう。
『秋哉?』
「……………今回みたいな事をされると、我慢出来なくなる」
躊躇しながらそう答えると、先輩はしばらく黙った後、盛大に爆笑した。
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