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第449話 秋哉
寝ようと思ってベッドに入ったけど、なかなか寝付けなかった。
原因は何となく分かってる。
緋桜を部屋に戻したとき、一瞬悲しそうな顔をした。
もしかしたら、追い出されたと思ってるかもしれない。
もう少し上手く対処出来れば良かったんだけどな。
そう思って、俺はため息をついた。
そんな時、微かにドアを叩く音が聞こえた気がした。
俺はベッドから起き上がって耳をすましてみる。
けどノック音は聞こえなくて、気のせいかと思った。
でも何となく、確認した方が良いような気がした。
ドアを開けて確認すると、部屋の前に黒い塊を見つける。
廊下が暗くてシルエットしか分からないけど、それが誰なのかはすぐに分かった。
「…緋桜?」
こんな時間になんで緋桜がこんなところに居るんだろう、しかもこんな端の方に座り込んで。
そう思って緋桜を見て、俺は慌てた。
「って、どうしたの!?」
俺が慌てて緋桜に駆け寄ってそう言うと、緋桜はきょとんとした表情をした。
俺がドアを開けて緋桜と目が合った瞬間、突然緋桜が泣き出した。
何かあったのかと思って慌てたけど、緋桜を見る限りそうでは無いらしい。
「どうした?」
俺はポロポロと涙を流す緋桜の前にしゃがんだ。
緋桜は動こうとせず、涙を拭う素振りもみせない。
やっぱり何かあったのかと心配になる。
「緋桜、なんで泣いている?」
そう言って俺は、緋桜を怖がらせないようにそっと涙を拭った。
緋桜が涙を拭う俺の手を握った。
「…………寂しい」
緋桜が聞こえるか聞こえないかの声で呟く。
でもその声は、しっかりと俺に届いていた。
やっぱり、追い出してしまったことが原因なんだろうか。
「…ごめん、俺が緋桜を遠ざけたから」
そう言うと、緋桜は首を振る。
「……違う、これは俺の我が儘」
緋桜はそう言って握っていた俺の手をギュッと抱え込む。
俺には、緋桜がどうして泣いてるのか読み取る事が出来なかった。
「緋桜、言ってくれなきゃ分からないよ。大丈夫だから教えて」
そう言って俺は、いまだにポロポロと涙を流す緋桜の頬に触れて流れる涙を親指で拭う。
「………秋哉の側に、居たい。秋哉が側に居ないのは嫌だ」
どうしてこんな状態になってるのか分からないけど、これだけは分かる。
どうやら俺は、緋桜にかなり寂しい思いをさせてしまったらしい。
「うん、じゃあ一緒に居よう」
そう言うと、緋桜が探るような目で見てくる。
俺はそんな緋桜に微笑み掛けて、手を広げた。
「ほら、おいで」
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