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第8話

 途端に、さも疎ましげに突きのけられた。おれは害虫の類いか? 莉音はくやしまぎれに和毛を引っぱってやった。陽根が跳ねついでに、とりわけ敏感なポイントをこすりあげていく。 「ん……っ!」  不意を衝かれて、いやらしく腰がくねる。興奮度が増すのと比例して上履きの底がきゅっとなり、通奏低音のように資料室を満たす。  莉音は股間を眺め下ろして微かに眉をひそめた。片思いをこじらせたあげくクラスメイトと浅ましい行為に及ぶなんて、お笑い種だ。第一、運悪く現行犯逮捕といけば面白おかしく脚色した噂が学校中に広まるだろう。それが秀帆の耳に入って軽蔑された場合は、放浪の旅に出る。 「んん、ぁ、あ……」 「声、でけえ。風紀委員なんかを招き寄せるのが嫌ならセーブしろって」    しっ、と鋭く舌を鳴らす三神自身、限界が近いとみえて小鼻が膨らむ。ピストンが上下するように、(いただき)がかわりばんこに見え隠れするたびスチール棚が軋めき、古ぼけた地球儀が躍る。足首までずり落ちたスラックスを踏んづけてよろけると、今度はちゃんと抱きとめられた。。  その拍子に、偶然にしては狙い澄ましたような正確さで唇が耳たぶに触れた。タンポポの綿毛が触れた程度のあえかな刺激にすぎないが、弁が弾け飛ぶ。 「もっ、無理な感じ」 「俺……も……っ」  ほとんど同時に熱液がしぶき、重なり合った手を濡らした。栗の花めいた香りが立ちのぼって、カビ臭さを一掃する。 「濃いのがたっぷりで、べたべたする。半分はおまえのな」  三神が妖しく濡れ光る指をこれ見よがしに口に含んだ。うげっと顔をしかめ、そのくせ()れ寿司をこよなく愛する人さながら独特のえぐみが後を引く、と言いたげに執拗に舌を這わせる。一転して口をへの字にひん曲げると、スチール棚の裏に隠してあったボックスティッシュを投げてよこした。  後始末をすませると、莉音は体育座りに縮こまった。口止め料を払う代わりに乳しぼりのペニス版に従事する、というスタンスを貫くならともかく、雰囲気に流されて達したあとは自分を地中深く埋めてやりたくなる。  先輩に片思いって、なんのこと? と空とぼけるのが正しい場面でシラを切り通しそこねたばかりに、三神の共犯になり下がって。甘やかな余韻が残る下腹が厭わしいったら。  汚れたティッシュペーパーを丸めてビニール袋に入れた上から古新聞でくるんだものが、顔をめがけて飛んできた。スピンをかけて打ち返すと、三神はそれをレシーブしてラリーに持ち込む。そうやって、ふざけておきながら突然、魂の底まで射貫くような真摯な眼差しを向けてきた。

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