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第14話

 さてカーテンレールにびっしりと、てるてる坊主を吊るした甲斐があって土曜日は五月晴れに恵まれた。秀帆はコンパクトな体型を逆手にとって、だぼっとしたパーカとハーフパンツを上手に着こなした姿で駅前広場に現れた。ふだんは制服のスラックスで隠されている膝小僧がちらついて、眩しい。  魚拓ならず膝拓を取らせてほしい。莉音は、ぽやんとなりながらも笑いを嚙み殺した。ピーターパンみたいに愛らしいと口走ったら、ぶん殴られるだろうな。 「噴き出すのを露骨にこらえてるよね。何がおかしい、白状しなさい」 「別に、何もです。誓って、このとおり」  大真面目に十字を切ってみせると、秀帆はちょっぴり拗ねた様子ですたすたと先にいく。莉音は架空の尻尾を振り振り後につづき、やがてメインストリートに面した商業ビルに到着した。小はビーズから大は機織(はたお)り機まで扱っているここに来れば、たいがいの手芸用品はそろう。 「なあんだ、部活関連の買い出しですか。おれは、てっきり……」  てっきり? 映画館だとか遊園地だとか動物園だとか、定番のデートスポットが目的地だと心のどこかで期待していたのだとしたら、傑作だ。 「学校行事の狭間の今のうちに裏布の下見をすませておきたくて。図案を検討していた段階では予算重視でセール品の中から適当なのを見繕うことで意見が一致したけど、方向性に変わりはない?」  秀帆がエスカレーターの一段上から肩越しに振り向いた。  莉音は、ふくらはぎのフォルムを視線で愛でている最中だった。キャップのツバを撫でて、ひと呼吸おいてから答えた。 「そ、ですね。あんまり安っぽい布を使うと作品全体の印象がショボくなって損かも」  ──浅倉との共同制作で、高校最後の文化祭を思い出深いものにしたいな。  そう、秀帆が話を持ちかけてきたのは去年の秋、校内の自販機における〝温〟の占有率が増してきたころだ。  。ウエディングケーキに入刀する新郎と新婦の図が頭に浮かび、ふたつ返事で提案に乗った。そして何を作るか知恵を出し合い、パッチワークによるタペストリーでいくことに決まった。  今年の文化祭のテーマはSDGs──持続可能な社会の実現へ向けて、だ。  それを受けて布地についても古布を生き返らせるという点にこだわった。主にフリマサイトを通して買い集めた昭和中期の洋服地を、それらの柄ごとに長方形やら三角形やら六角形やらのピースに切り分けたうえで、デザイン画に基づいてブロック単位に縫い合わせていくこと、およそ八ヶ月。表布に関しては万全の構えといえるが、裏布の分まで時代物を買いそろえるのは財政的な理由で断念せざるをえなかった。

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