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第26話

「女子を敵に回してみ? どんだけディスられるか……ああ、おっかねえ」  わざとらしく身震いするのを黙殺して、手さげ袋を出窓の面格子に引っかけた。立花秀帆はクズ男、との噂が学校中に広まりしだい猛烈なバッシングを受けるのは必至。おっとりした彼の冷酷な一面を垣間見て幻滅したか、と言えば決してそんなことはない。むしろ悪者呼ばわりされることを恐れない潔さに感心する。  学校というムラ社会からはみ出す真似をするのは自殺行為に等しいのだから。一方で、ぞっとする。彼女の立場に自分を置き換えたら、エゴ丸出しと、と断罪された瞬間にぽっくり逝きかねないところだ。  三神が立ちあがった。莉音もつづき、すると秀帆がちょうど頬をさすりながらこちらへやって来た。  そして、ぎょっとしたふうに立ち止まる。この後輩は偶然ここを通りかかったのだろうか。さっきの一幕を覗いていたのだろうか。真実を炙り出すように冷徹な視線を〝やましい〟と書いてある顔にそそいだあとで、本来のやわらかな空気をまとった。 「かも、と仮定して一応弁解するね。アヤフヤな態度をとって半端な期待を抱かせるのはかえって狡いと思って、きっぱり拒否ったのが裏目に出て……」  平手打ちが炸裂するジェスチャーを加えた。 「道理でほっぺたが赤いと思ったんだ」  莉音は手さげ袋を引っ摑むと、中身の浴衣ごとひねりつぶした。こんなことなら、と歯噛みする。仇討ちに赴く事態を想定し、彼女を尾行して、何年何組の○○さんなのか突き止めておくべきだった。  パンパンパン、と三神は皮肉たっぷりの拍手で茶々を入れると、 「ご立派な意見を拝聴しました。今後も告ってきた相手が誰かにかかわらず公平、且つ容赦なくフッてくれると信じてますよ、先輩」    莉音に意味深な一瞥をくれた。大好きな先輩さまはアピってもやっぱり脈なしで、進んで彼女の二の舞を演じるほど馬鹿じゃねえよな──と。  三人があたかも三角形のそれぞれの頂点に当たるところに立っているさまは、別々の軌道を周回する三つの惑星を思わせた。接近したかと思えば遠のき、影響をおよぼし合っても、常に一定の距離を保つ惑星同士に。  どの運動部も本格的に活動を始めた様子で校庭が俄然、にぎわしい。三神は舌打ち交じりにそちらを眺めやると、 「さすがに行かねえと顧問に殺される。浅倉、日曜日の競技会バックレたらLINEしまくってやるからな」  命令口調で釘を刺し、それから豹のように敏捷な身のこなしで走り去った。

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