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第37話

   その二段目の隅にレジ袋がへばりついている。拾い、ぎりぎりとねじったうえで卍形に縛った。三神なんか、こうで、こうだ。何がブロッコリーをよこせだ、なんで秀帆で一杯にしておきたい思考回路を乗っ取る。  たとえ、しごきっこしている最中に優しい指づかいで髪に触れてくるのがあながち嫌じゃなくても、あいつと馴れ合うのは真っ平だ。  レジ袋をポケットにぎゅうぎゅう押し込んだ。それからグーに握った右手を高々と掲げた。 「グリコのジャンケンして勝った順にのぼって、一等賞はジュースをおごってもらう」 「いいじゃん、いいじゃん、やるべ」  と、木崎がいっとう下の段に戻れば、 「たいがい言い出しっぺがビリになるんだ、浅倉、ごちそうさま」  須藤は手の甲にわざと皺を寄せるというなつかしいやり方で、どの手を出すか占った。  かくして石段のてっぺんが双六でいうの勝負が火蓋を切った。最初にチョキで勝った木崎が、チヨコレイトと唱えながら六段のぼった。莉音も負けじとパイナツプルで追いついた。友だちと小学生レベルでじゃれ合うのは理屈抜きに楽しい、なのに少し淋しい、と思う。木崎も須藤も口が堅くて百パーセント信頼している。それでも秀帆に片思いしていることを打ち明ける気はさらさらない。  昨今、ゲイに対する偏見が薄らいできたといっても白眼視するわからず屋は一定数いる。木崎と須藤にカミングアウトしたばかりに、巡り巡って秀帆に迷惑がかかる事態を招くことがあれば、腹をかっさばいて詫びるようだ。片恋がらみの件についての唯一の理解者が、脅迫者でもある三神というのは皮肉な話だ。 「……グリコ、いっちばーん!」  須藤が人差し指を突きあげながら鳥居をくぐった。石段の数が煩悩のそれと同じく百八なのが、なんともはや。  本殿を背景にスリーショットを撮った。規定に従って担任のスマートフォンに画像を送ると、やれやれといったところだ。すきっ腹を抱えて、展望広場へと境内を抜けていく。  北の方角に山脈がゆったりと横たわり、南に視線を移すとジオラマのような街並のさらに向こうを大きな川が駘蕩(たいとう)と流れる。しかし今日は風景全体が靄って、えっちらおっちらのぼってきた甲斐がない。  しかも、めぼしい場所はすでに三年生が占領していた。売店の裏手にスペースを確保し、レジャーシートを敷いたとたん、三神がするすると忍び寄ってきた。そして莉音の隣に我が物顔で胡坐をかく。 「お疲れ、優勝するとかすげえじゃん」  木崎がハイタッチを求めたのに対して、 「バスケ部に競り勝った。学校側は非公認のレースだからな、ドローンが撮った映像は裏サイトで配信するってさ」    三神は面倒くさげに応じると、焼きそばパンの袋を破った。

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