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第38話
「遠足の昼飯がパンって、悪いけど質素だね。そこまでパン愛の人だっけ」
須藤がトンカツを挟んだ箸を向けると、三神は焼きそばパンをかじり取ってひと言。
「家事全般が当番制の母子家庭あるある。寝坊して弁当をつくる暇がなかった」
木崎が須藤をこづき、須藤はトンカツを弁当箱に戻した。莉音は機転を利かせて弁当箱の蓋に唐揚げを載せると、トロフィーを授与するように捧げ持った。
「パンパカパーン、三神殿、貴殿は……」
「俺は、おまえがレンチンしたブロッコリーを食うのを楽しみにしてたんだ!」
などと、声を荒らげて弁当箱をひったくると、手づかみでブロッコリーをぱくついた。苦手と言っていたくせに、分厚いステーキにありついたような食べっぷりだ。
そう、高校生男子といえば肉を熱愛する生き物だ。ところが三神の中では唐揚げ>ブロッコリーという計算式が成り立つ。
隠れ菜食主義者なのか浅倉訊いてみ、ツッコミどころ満載だし、さわらぬ神に祟りなし──。三神を除く三人は目配せで協議した結果、暗黙のうちに合意に達した。深掘りするのはやめておこう。うなずき合うと、それぞれ卵焼きやタコさんウインナーを頬張った。
「さっき、百円望遠鏡のそばで立花先輩を見かけたぞ」
三神が今度はチョリソードッグをかぶりつきながら、ぼそりと言った。
莉音は弾かれたように膝立ちになった。百円望遠鏡のほうに瞳を凝らし、だが売店が視界をふさぐ。秀帆にしても遠足に来た先でまで後輩にまとわりつかれるのは勘弁してほしい、が本音かもしれない。
第一、クラスメイトに囲まれているのだとしたら領域を侵すのは心苦しい。
ただの先輩後輩の間柄なら、挨拶にいこう、即実行なのに。そう思うと、苦いため息がこぼれた。
「おーい、ブルーになってないかあ」
木崎が背中をつついてきて、彼の弁当箱から海老フライをひょいパクといく。すかさずミートボールを盗り返されて、あわやバトル勃発の局面で、ふと思い出した。半月ほど前、
〝捧げて捧げて、すり減っていくばかりで、でもいっぺんに粉々に砕けるよりはマシ〟。
こんな赤面ものの一文を伝言板を認 めた。ドンビキされるのが関の山で、ところが仮称Xは思いやりにあふれたメッセージを綴ってよこした。
〝異物が母貝のなかで真珠へ育つ。過程に苦しんだぶんも美しい何かへ昇華される〟。
食休みをしている間に風が強まった。ランチョンマットだの紙ナプキンだのが、螺旋を描きながら舞い飛ぶ。鈍色 の雲がちぎれちぎれに猛スピードで流れて、やがてひと塊になった。にわかに展望広場はおどろおどろしい雰囲気に包まれて、引率の教師たちが藤棚のかたわらに集まって話し合いをはじめた。
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