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第47話

  「うっしゃー……っ!」  ピルエット風にくるくると回ったあげく、金網フェンスに激突した。しゃがみ込んでいきながら視線を感じた。捉えたものすべてを焼き滅ぼすような烈々たる、それ。  ややあって蝶番を引きちぎる勢いで塔屋の扉が開いた。莉音は二枚目の浴衣、それの片袖を糊づけ用のバケツから引きあげたところだった。驚いて取り落とし、そして目をぱちくりさせた。 「今さっきポールのそばにいたよな? ワープした、みたいな瞬間移動」 「たまたま、(ひゃっ)パーたまたまだ。おまえが屋上をちょろちょろしてんのが見たくもねえのに見えてLINEする手間を省いた」  三神は荒い息をつく合間にまくしたてた。グズグズしていたら莉音と行き違いになる、急げ──とばかりに、すっ飛んできたとおぼしい。汗まみれの顔をユニフォームでぬぐって、ひと言。 「週末あけとけ、花火大会に行くぞ」 「先約がある、無理」  ばっさり切り捨ててバケツを持ちあげた。ひとまず退散、と階段口へ向かいしな、 「先約なんか知るか、俺を優先しろ」  もぎ取られたバケツから先ほどの袖がはみ出してコンクリートを掃いた。莉音は奪い返しに走り、だが先んじて塔屋の壁に押しつけられた。そのうえジャッキで固定するふうに足の間に膝をこじ入れられると、身動きがとれない。 「どけ、ジャマすんな!」  がなりたてながら猛然と身をよじっても、駄目だ。三神はひるむどころか、莉音の両腕を万歳する形に押さえ込んで抵抗を封じる。  そうやって(ほしいまま)にこの場に君臨しているわりには、やるせなげな色が双眸をよぎった。恐ろしく口下手な学芸員が所蔵品について解説を求められ、その分野に造詣が深いにもかかわらず、へどもどしてもどかしがるように。  莉音は(はらわた)が煮えくり返る思いで仏頂面を()めあげた。 「優先しろとかムカつく、何様だよ」 「貸しがあるのを返してもらって何が悪い」 「やり方が汚いのな。とにかく花火大会は別の人と行く、行くったら行く!」 「どうせ立花先輩とデート気分だとか、なんだとか浮かれてんだろうが。痛いやつ」    先に洗い張りを終えた浴衣地をたたんでベニヤ板の隅に寄せてあった。それが何かの加減でずり落ち、そちらに気を取られた隙に乗じてスラックスの後ろに手が回った。 「『先輩が大好きなの、でもプラトニックで満足なの』──キショい乙女志向で、てめえをだまくらかすの得意な。けど、あれか。オカズにするぶんには、ここをいじられるのは基本か」    中心の縫い目に沿って指が這い進む。布を隔てて尻の割れ目をなぞり下ろしていき、窄まりを探り当てると、ぐるりで円を描く。

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