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第48話

「どっ、どこ、さわってんだ!」 「どこって、カマトトぶって訊くのか」  くっ、と押されて、びくんと全身が跳ねた。ギャザーが攣れる感覚に顔をしかめ、その顔が真紅に染まる。  秀帆主導でエッチにこぎ着ける夢を見て下着を汚したことは何度かある。意識下でそういう種類の欲望を育てていることに関しては否定しない。たいがいの高校生男子は推しのアイドルと、というパターンで経験ずみのはずの秘密だ。三神ごときにデリケートな領域に干渉する権利はないのだ。  再び秘処をつつかれて凍りつく。鈍い痛みの底に小匙一杯程度の快さがひそんでいるようで、下腹(したばら)がざわめいた。戸惑いと生理的嫌悪感をない交ぜに瞳が揺れ、それでいて恐る恐る吊り橋を渡るのにも似て、好奇心をくすぐられるものがあった。 「しょっぺえの」  ざらり、と耳の下の窪みを舐めあげられて皮膚が粟立った。莉音は(まなじり)をつりあげると改めて四肢をばたつかせた。だが相手は、同い年の自分を軽々と肩車してのけるほど強靭な肉体の持ち主だ。反撃に転じるどころか、ありったけの力で抱きすくめられると、ワイヤーで雁字搦めにされるようだ。 「インフレだからな。『ボク、先輩に片思い中なんですぅ』を内証にしとく代金も値上げする。手コキは飽きた、ステップアップだ」    と、哀願する響きがごくごく微かにひそむ命令口調で囁きかけてきながら蕾をくじる。 「ステップアップなんかするか、ボケ!」  罵声を浴びせても黙殺されたばかりか指づかいが執拗さを増す。急所めがけて膝蹴りをみまっても、あっさりかわされる始末。指と下着が一緒くたにめり込むに至っては、悪ふざけの域を超えている。  アブラゼミが塔屋の屋根に止まった。じいじいと鳴き声が耳をつんざくと、触れ合わさった肌がなおさら熱い。  そこで三神がさらなる暴挙に出た。シャツの裾をかき分けて、スラックスの内側に手をすべり込ませる。ボクサーブリーフの縁をつまみ、バナナの皮をむくように幾分ずらす。 「ちょっ、洒落にならないって!」  思いきり足を踏んづけて一矢を報いるそばから、指が狭間にもぐる。洞窟の奥に眠る秘宝を求めて探検家が出発するように。  莉音は蒼ざめた。セックスにはもちろん年齢相応に興味がある。三神とは確かに勃ちぐあいに精通している間柄だが、それは口止め料を払う代わりに、しごき合うのを上限とした契約に基づいてのこと。(けだもの)モードが発動された現在(いま)、アオカンになだれ込まれでもしたら悲惨だ。  現に短パンの前はサポーターを穿いていてもそうとわかるほど、ペニスの輪郭をくっきりと映し出している。まさか、もしかすると、冗談抜きに貞操の危機?  一発勝負の体当たりをかまし〝壁〟がぐらつくと同時にダッシュした。ところが三神は反応速度で勝り、あえなく捕まった。ぐりり、と股間が臍を押してきて、大蛇(おろち)が鎌首をもたげたような猛りっぷりにすくみあがる。  滅茶苦茶に頭を打ち振れば偶然、それとも狙い澄ましたのか。唇が唇をかすめた拍子に、記憶の倉庫の奥で何かが蠢いた。

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