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第4話
大きな流し台のような場所に、色んな種類のシャンプーボトルが並んでいた。
「けっこう種類あるな…。」
「だろ?業者がフードを持って来る時に、シャンプーの試供品も持って来るんだよ…。」
「あ、コレ!店に入れようか迷ってるやつだ。」
気になる物があったのか、伊織が嬉しそうにパッケージを読み始めた。
僕はいつになったら綺麗になるんでしょうか…。
鼻をスピスピ鳴らして伊織を見上げた。
「ごめんごめん。今からお風呂に入ろうな?」
雨に濡れた体は、毛がツンツンに固まって乾いている上に土で酷く汚れていた。
弱めのシャワーの水流で後脚からおしり、背中とゆっくり慣らすようにお湯をかけてくれる。
いつもなら何て事ないシャワーの音も、今の僕には大きく聞こえて凄く怖かった。
「よしよし。"のーん"してて?うん、上手!」
事ある毎に声をかけてくれて、その度に嬉しくて尻尾を振った。
顔を流す時も掌に顎を置くと、包み込むようにしてスポンジでお湯をかけてくれた。
「おしり、ごめんね…。」
ん?なに?何でおしり?
一通り身体を濡らした後、おしりに手を当てられ肛門を指で摘まれた。
(ヤダヤダ!何してるの?…あ。)
今なんか出た…。
慌てておしりに鼻を近づけ…確認!
なんだか鼻にツーンとくる独特の臭い…。
「この匂い…もしかして小豆、オメガなのか?」
何?オメガって…。
それよりもおしりの穴からピュッて何か出たんだけど…。
「ふーん。小豆もオメガなのか。…確かに肛門腺液に、微量のオメガフェロモンの匂いが混じってるな。」
ドッグバスを覗きに来たネコが、すんっと鼻を啜った。
(ネコ!こうもんせんえきって何?オメガとかよく分かんないんだけど!)
「お前、獣人のガキのくせにそんな事も知らないのか?」
無知の僕に意地の悪い笑を浮かべ見下ろしてくるネコ…。
知らない事を聞いて何が悪い!
(そんなの…知らないよ。教えて?)
「肛門腺液は、動物の肛門の下にある肛門腺で作られる分泌液だ。個々でそれぞれ臭いが違って、その臭いで動物同士は、相手を見分けてんだ。」
(あぁ!犬同士がお尻を嗅ぎ合って挨拶するアレか。)
「そういう事…。それからオメガって言うのは、男女のどちらでも妊娠できる奴の事で、この世界においての劣等『コホン…ネコ?それ以上言ったら怒るからな。』…。」
医者がわざとらしい咳払いの後、ドスの効いた声を出しネコを睨みつけた。
その言葉に肩を竦め視線を外したネコは、何処か気まずそうな表情になった。
これ以上聞いても良いものか悩みつつも気になって質問を投げかけた。
(ん?…それって男の僕も子供を産むの?!)
「あぁ、時期が来れば分かる…。
その辺はまた伊織にでも聞けばいい。お前を連れ帰る気満々だしな?」
上手いことはぐらかされた気がしなくもないけど…。
(よく分かんないけど、まぁいいや…。
そういえば医者の名前は何て言うの?伊織がたまって呼んでたけど。)
たまって呼び名も猫の名前みたい。
「彼奴は、珠希 。
腕が良いって街で評判らしいけど、どっからどう見てもエセ医者だろ?
それに毎晩毎晩盛りやがるただの性欲モンスターだ…。」
確かに、淡い茶髪に緩くパーマがかかった無造作ヘアーの珠希さんは、白衣を着てないと一見医者には見えない。
それに何か…ヤバい事を聞いた気がする。
「ネコ~?聞こえてるぞ。今晩も!楽しみだなぁ?」
ネコと肩を組み顔に不敵な笑みを浮かべている珠希さん。
伊織!この2人かなり危険な匂いがするよ?
「よーし!小豆、サッパリしたな?いい匂いもするし。」
あの2人のやり取りに見向きもせず、びちゃびちゃの僕をタオルで包み抱き上げた。
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