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第5話
…ブオォン。
暖かい風が、僕の濡れた身体を包み込む。
ふわぁ…。気持ちいい。眠くなってきちゃった。
「小豆?寝るなよ~?」
それはフリですか?
押すなよ、押すなよ!的なフリ?
もう眠くて立ってられないよ…。
うつらうつらしていたら、急に身体の力が抜けて、カクンッと前のめりに倒れて行った。
「おっと、本格的に寝ちゃったな…。」
「ホントだ。やっぱり仔犬だねぇー!」
「コロコロしてて可愛いわ。これはお持ち帰り確定だな。」
「体調が良くなりしだい予防接種したいから、また連れて来てね。」
「分かった。…小豆は、やっぱ柴犬だな。この巻しっぽと言いちっせぇ立ち耳。」
こんな会話をしている事なんて、熟睡中の僕は全く知る由もなかった。
目が覚めた時には、見知らぬクッションの上に居た。
「おっ!目覚めたか。お腹空いてるだろ?」
エプロンを畳みながら現れた伊織は、僕をトイレシートの上に連れて行った。
これは…ご飯の前に出すもん出せって事ですか?
せめてあっちに行っててくれたら、心置き無く用を足せるのにな…。
何で人間の言葉は理解できるのに、僕の言葉は通じないんだよ!
今は犬の姿をしているからって事なのか?
人の前で用を足す事すら屈辱なのに、後片付けまでされるなんて…。
「獣人は人間と同じ物を食べても大丈夫ってたまが言ってたけど、一応犬でも食べられる物で作ってみたんだ。」
おぉー!美味そう!
伊織ってまさかの料理男子?
ドッグフード食べさせられないだけマシだと思ってたけど、これは想像以上だ!
食べたいから早く下ろして?
「そんなに慌てなくても沢山用意してるから、一緒に食べような。」
うん、うん。
一緒には食べるけど…別々に座らせて欲しい。
何で膝の上で食べさせようとしてるの?
これ以上羞恥心を煽らないで欲しいんだけど…。
「はい。小豆、あーん?野菜から食べような。」
あーんじゃないよ!
口の前に野菜が来ると、反射的に口を開いてしまった。
これは僕の意思じゃない。この身体の宿主の本能だ!
どんなにお腹が空いてても、決して僕の意思で口を開けたんじゃない。
それにしても1回食事をしただけで、疲労困憊って…。
こんなに疲れる食事は初めてだよ。
これが毎食続いたら身が持たない…。
慣れるのが先か…ストレスで体調崩すのが先か…。
「ご飯食べたら、また眠くなっちゃった?」
眠いんじゃなくて疲れたんだよ…。
少しそっとしておいて。
「俺も一緒に昼寝しよっかな。小豆、おいで?」
えぇー!どこに連れて行くんだよ!
僕は今のとこでいいから。
このクッションの上で充分だから!
「ここで一緒に寝よ。…はぁ、昼寝とか贅沢だ。」
ここって伊織のベッド?
マジ?!僕一応男何だけど?
今は犬の姿してるけど…中身は思春期真っ只中の健全な男子だよ?勘弁してよ…。
伊織は、早々に寝息を立て始めた。
僕は寝られる訳ないじゃん!
男同士でも数時間前に会った人と同じベッドとか…気まずい。
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