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第6話
このちょっと変わった世界に迷い込んで3日が経った。
僕が生活している伊織の家は、大きな二階建ての一軒家で、1階には伊織が経営する美容サロンがある。
美容サロンって言っても、客層は人間じゃなくて犬猫の動物だ。
伊織は、犬猫を美容するトリマーという仕事をしている。
だから病院でしてもらったシャンプーも毎晩…おっと失礼!…まぁかなり気持ちよかった訳だ。
それに前観たテレビの再放送だったと思うんだけど、動物関連の番組で独占取材として、トリミングをしている伊織が取り上げられていた。
業界ではかなりの有名人で、伊織の高いトリミングセンスを目当てに、遠い所から半日以上も掛けて来たと言う人も居たとか…。
「あず?そろそろ起きな。」
僕が眠っているどデカい…キングサイズだろうベッドが、ギシリと軋み沈んだ。
本当は、もうとっくに起きてるんだけどね…。
だけど今日は、何が何でも起きません。ここから絶対に動きません。
何故なら昨日の夜に伊織が電話しているのを聞いちゃったんだよね…。
だからこうやって枕の下に頭を突っ込んで、狸寝入りを決め込んでいるんだ。
一応犬だけどね…。寝たフリだから狸寝入りね。
まぁ伊織曰く俺の顔は、キツネ顔じゃなくてタヌキ顔らしいけど…。
モチモチ頬っぺの短めの小さな鼻が特徴的なタヌキ顔の柴犬ね。
「あずく~ん?小豆さ~ん?早く起きないと朝ご飯冷めるよ。はぁ、どうしても起きないってんならくすぐるぞ。」
ん?!くすぐる…。ボク、くすぐられちゃうの?
考えてる内に腰の辺りにモゾモゾと動き回る感触がした。
うわぁ…。何だこれ。ゾワゾワする…。
伊織の指が背中を這うように動くと、無意識に後脚がぴょこんぴょこんと跳ねた。
「…ふっ。小豆おはよう。やっと起きた…って、アレ?」
起きた事がバレてしまいクルリと仰向けに抱き上げられた。
でもまだまだ目は開けてやんない!
僕はまだ寝てます。
「…分かった。意地でも起きないんだな?…いいよ?起きなくても。」
あれ?怒っちゃった?
再びベッドに寝かされて、伊織は寝室から出て行った。
どれくらい経ったかな。
僕も意地を張ってベッドから動かなかったら、伊織がまた寝室に来て、狸寝入りを続行中の僕をリュックサックに入れた。
ちょっと待って!僕の意思は無視なの?!
ヤダヤダ!出してー!行きたくない!
昨日聞いちゃったんだからね!注射の予約取ってるの!
痛い所に連れて行くなら、伊織の事も嫌いになっちゃうからね!
絶対に嫌いになっちゃうんだから!
謝っても、もう知らないよ?
僕泣いちゃうもんね!
幾らリュックサックの中で、鳴いても暴れても、病院に向かう足は止まらない。
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