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第8話

「よし!予防注射するね。…あっ!そうそう。 その前に1つ聞きたいんだけど、もう人間の姿になれる?」 えっ?!そんな短期間でなれるもんなの? その辺の知識全くないんだけど…。 (…どうやったらなれるの?) 「…あ~。ゴメン。 何か答えてくれてるんだろうけど、分かんないな。 ネコ~!ネコさ~ん!ちょっと来て。」 やっぱり犬の姿だから伝わらないのかぁ…。 珠希さんがネコを呼ぶと、診察室と奥の部屋を隔ててる窓を前脚で器用に開けてネコが入って来た。 「ネコさん!悪いんだけど…小豆ちゃんの通訳お願い。」 面倒くさそうに斜め下に視線をずらしたネコは、顔を洗うように前脚を動かした。 するとどういう訳か…。 先程まで黒猫が座って居た場所には、一糸纏わぬ姿で佇む成人男性もとい人間の姿になったネコが居た。 ひゃあぁぁ!!その格好どうにかしてよ! 幾ら男同士でも目のやり場に困るって!! 「ありがとう、ネコ。 …素裸ってのもあれだからコレ羽織ってて。」 そう言って珠希さんは、素裸のネコに着ていた白衣を羽織らせた。 裸見ちゃった…。 何だかとてもやましい気持ちになって、ネコから目を逸らした。 「で、通訳って小豆から何を聞くんだ? 得られる情報なんてたかが知れてると思うが…。」 「人間の姿になれるかどうか確認して欲しいんだ。注射を打つ部位を決めたいからさ。」 ネコ酷い! そりゃあ、この世界の事は無知も同然だけど…。 幾ら人間の姿になれるって言われても、この犬の姿から、人間の姿になる方法なんて教えて貰ってないのに分かる訳ないじゃん! (そもそも人間の姿ってどうやったらなれるの?) 「…マジか。本当にやり方分からないんだな。本能で自然と出来るようになるもんなんだけど。」 (…そうなの?!ネコみたいに顔を洗う仕草をするとできる?) 「それぞれ得意な方法があるんだよ。 ハァ…。仕方ねーから無知なお前には、特訓つけてやる。 だから人間の姿になれない今は、そのまま大人しく注射されな?」 意地の悪い笑みを浮かべたネコは、珠希さんに消毒液の浸みたコットンを渡したりとサポートし始めた。 「伊織、小豆ちゃんをしっかり固定しててな。」 珠希さんの言葉に伊織が、肩甲骨の辺りを動かないよう固定してきた。 伊織ー!離して!怖いよ…。 どんなに後ろ脚を突っ張ってもビクともしない伊織に、ヒューン…ヒューン…と鼻を鳴らすしかなかった。 すると珠希さんが首の後ろを消毒し始めた。 そこ?!そんな所に注射するの?? 絶対痛いじゃん! 腕でも嫌なのに首の後ろって、見えないし余計に怖いよ! 「はぁーい、ちくっとするよ。」 首の後ろの皮膚を少し摘まれて針が刺さった。 キャオンンッッ!! (イッターーイ!!) あまりの怖さと痛さに肉球からは、大量の汗が噴き出し診察台に肉球の跡を付けた。 注射が終わった後も大粒の涙が、目からポロリポロリと零れ落ち止まらなかった。 注射を打たれた首の後ろも、熱を持ったように熱く痛み続ける。 ネコが、意地の悪い笑みを浮かべた理由がよく分かったよ。 もし人間の姿になってたら腕だったのかな…。

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