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第9話 珠希side
「小豆?良く頑張ったな。…抑えつけて悪かった。
ほら、もう終わったんだし帰るぞ?」
さっきから伊織が、小豆ちゃんを宥めようと声を掛け続けているんだけど、休ませるために入れたケージの奥で丸まって動かなくなった。
注射をした俺が言うのも何だけど…。
可哀想なくらいに怯えちゃっててさ。
つぶらなアーモンド型の瞳にいっぱいに涙を溜めて、ケージに近づく人から目を離さず警戒心丸出し。
おまけに手を入れれば唸って、尚更縮こまってしまう。
「伊織、そろそろ店開ける時間だろ?このまま小豆ちゃんうちで預かるよ。注射の後の副作用も気になるし。」
「…ん~。そうだな。こんな状態じゃ連れて帰れないし…。じゃあ、夜まで頼んでもいいか?閉店したら迎えに来るから。」
「分かった。それまでに機嫌直しとくよ…ネコが。」
「はっ?俺?!」
ブツブツ文句を言っているネコと一緒に伊織を見送って診察室に戻って来ると、小豆ちゃんがケージに手を掛けて寂しそうに鼻を鳴らしていた。
寂しいなら意地を張らずに一緒に帰れば良かったのに…。
「小豆ちゃん、寂しいならネコに遊んでもらったら?」
小豆ちゃんに話し掛けていると、来院を知らせるベルが鳴った。
「はーい。こんにちは。」
患者さんを向かい入れ診察室に通していると、ネコが小豆ちゃんを抱えて奥の部屋に入って行った。
相手してやる気になったのかな?
まぁ、昼寝スタイルでダラダラ受付に居るよりは、小豆ちゃんと遊ぶ方が健康的だよね。
たまに薬剤の準備に奥の部屋に行くと、広げられたタオルの上で、猫の姿に戻ったネコに転がされて遊ぶ小豆ちゃんの姿があった。
ジャレ付いて来る小豆ちゃんをネコは、面倒くさそうに足らってるようだけど、本当は結構気に入ってるよね。
嫌な相手なら近づく事すらしないネコが、あんなに傍に居る時点でお気に入りは確実だな。
さっき他の患者さんの通訳を頼むために診察室に呼んだ時も、小豆ちゃんの時はスっと入って来てたのに、さっきはチラッと中の様子を見るだけで入って来もしなかった。
完全に仕事放棄したよね…。
まぁ、今日は大目に見るよ?
大事なかわい子ちゃんが、最優先なのは仕方ないしね。
「2人共…楽しそうだね。ついでに人間の姿になる特訓ってやつもしてあげたら?」
俺の言葉に大喜びで、しっぽを回している小豆ちゃん。
獣人に生まれたからには、人間の姿に憧れるのも無理はない。
俺も正直、小豆ちゃんの人間の姿に期待してるんだよね。
このままでも充分可愛いんだけど、人間の姿でコミュニケーションを取れるようになったら…って考えたらもうヤバいよね?
伊織の奴、理性ぶっ飛びそうじゃない?
可愛い子にすぐ絆 されちゃうからな。
だから可愛いを追求するトリマーも伊織には天職なんだよな。
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