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第10話
注射をされた事に拗ねて、ケージの奥で丸まっていたら伊織が1人で帰ってしまった。
痛い事をするのに加担した伊織に腹を立ててたけど、それでもやっぱり置いて帰られると寂しい。
珠希さんが、ネコに遊んでもらいなって言ってたけど、ネコは診察室に来ないし…。
何処に居るんだろ?
しばらく珠希さんが話しかけてくれてたけど、患者さんが来て診察室に1人取り残されてしまった。
「おい。小豆、向こうの部屋に行くぞ。」
急に奥の部屋から現れたネコが、ケージの中に居る僕を抱え上げた。
(ネコ!遊んでくれるの?)
嬉しくてネコが着てる白衣に顔を擦り付け甘えた。
奥の部屋には、沢山の棚に並べられた薬剤と、理科の実験で使うようなビーカーやフラスコそれに顕微鏡もあった。
タイル張りになってる所には、以前伊織がシャンプーをしてくれた流し台があって、前は気づかなかったけどもう1つ奥に続く扉があった。
多分そこが入院してる子たちの居る部屋だな。
他の子の気配は感じるから。
「床は滑るから、この上で遊べよ。」
そう言って、床に広げられた大きなタオルの上に下ろされた。
(…え~。1人で遊ぶの?相手してよ。)
「ったく。遊ぶ事も1人で出来ないのかよ…。」
憎まれ口を叩きながらも、猫の姿に戻ってくれたネコは、僕をタオルの上で転がして遊び始めた。
僕がネコの腕にジャレ付くと、すかさず猫パンチを繰り出してくる。
それ…地味に痛いんですけど…。
でも滅多に遊べない相手だから我慢しよう。
しばらく遊んでいると、手が空いたのか珠希さんが来て、特訓してあげたら?と提案して来た。
そうだよ!
今から特訓してくれたら、早く人間の姿マスターできるようになるかもっ!
(ネコ!コツ教えてよ!)
(…とりあえず人間の姿をイメージしろ。分からなかったら、珠希を見ながらしてみろ。)
人間の姿…抽象的にも程があるよね。
もう少し具体的な方法を期待してたのに…。
(もう少し…ネコが顔を洗う仕草で変わったように、こうやったら変わりやすいとかないの?)
(そうだな…。
耳と尾を引っ込めるように。
四肢の握りを手のように広げる。
身体中の毛を肌にする感じだ。
顔はその辺が出来るようなったら、自然とコツが掴めるだろ。
よし!ここまで、やってみろ。)
うおっ!急にスパルタ指導だぁ。
とりあえず耳としっぽを引っ込めるイメージだね。
…こうかな?キュッとお尻に力を込める感じ?
耳は押し混んだ方が良いかな。
床に前屈して、両腕で頭を抑えて試してみる。
(…何をしてるんだ?ケツを突き上げて、間抜けな格好だな…。)
お尻に猫パンチが飛んできた。
ヒャン!
(何すんだよ!)
(お前こそ、なに間抜けな格好してんだ。…毎回その格好をして人間の姿になるつもりか?)
えっ?!…もしかして癖になるってこと?
人間になる方法とかって、練習の仕方で変わるの?
それはヤバい!気をつけなくちゃ!
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