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後日猥談 ─初夜─5

 片手であっさりとボア素材のお気に入りパジャマを剥いだりっくんは、マスクとゴム手袋を白衣のポケットにしまうと、意味深に僕の首筋を撫でた。 「あっ、りっくん……っ」  首筋から鎖骨に下りた両方の手のひらが、さらっと乳首に触れて身を捩る。  お尻に触れられないからって、毎晩ここの開発は欠かさなかったりっくんだ。  少し触れられただけで声を上げてしまうようになった僕を、眩しげに見下ろしては笑みを濃くする。 「ここ、感じるようになりましたね」 「んんっ……!」 「舐めても、吸っても、いい反応をしてくれる……」 「やっ……あっ……」  簡単に尖る先端を、いかにも甘いお菓子でも味見するかのように舐められると、口を閉じていても鼻に抜けた声が出てしまう。  開発の賜物だって喜んでるのがありありと分かる表情で、りっくんは僕の反応を窺いながら両方の乳首をまんべんなく舐めた。 「もう固くなっています。そんな素振り少しもなかったのに……乳首舐められて感じたんですか?」 「や……っ、そ、んな……っ」  たった今、自分でそう言ってたじゃん……!  僕が感じるようになったのは、未開発だと知って嬉しそうにそこを育てたりっくんのせいだ。  誰からもいじられてないばかりか、摘まれるのも、舐められるのも、吸われるのも、甘噛みされるのも、りっくんが初めて。  『すぐには感じないらしいですよ』と僕に微笑んでみせたりっくんは、ウソを吐いている。  だって、僕が『くすぐったいよ』と笑っていられたのは二日目までだったから。 「これが毎晩愛した成果だと思うと……喜びで全身に震えが走りますね」 「んっ……あ、っ……りっくん……っ」  膝で僕の股間を押すりっくんに非難の目を向けると、おでこを出していつもより若く見えるりっくんが至近距離で見上げてくる。  うっ……カッコイイ……。  僕の乳首を舐めたり吸ったりしてやらしさ全開なのに、なんでこんなに整然として見えるんだろう。  ついでに言うと、涼しい顔で僕の乳首から離れないりっくんは、膝頭で股間を柔く刺激するのをやめない。  歯医者さんごっこからの切り替えが早いのは、すぐに反応しちゃう僕も一緒だった。 「冬季くん、うつ伏せになれますか」 「う、うん……」  りっくんの手を借りて、僕はベッドの上で転がった。袖を抜いたパジャマと肌着がポイと頭元に放られたのを見ると、ほっぺたが熱くなる。  これから本格的に、愛の重たいりっくんから愛されるんだ。  いつも下だけ履いた状態で、上はこうして全部脱がされる。痣が見えないからって。  元カレ達が「汚い」と言った痣を、この世で一番見たくないのがりっくんだと思う。  それなのに……。 「冬季くん……」 「んっ……」  でもりっくんは、あえてそこに触れて必ず口付ける。僕の舌を追いかけ回す時みたいな強引さはまるで無く、優しく慈しむように唇を落としてくる。 「冬季くんの体は、どこもかしこも綺麗です。俺が触れて汚してしまわないか不安になるほど、とても……」 「りっくん……っ、あっ……」  背中に覆い被さってきたりっくんは、僕自身にはまるでそう見えない痣を「綺麗だ」と言って愛してくれる。  やっぱりりっくんの中の罪悪感が消えないんじゃないかって、痣にキスされる度に思うんだけど……それならそれでいいかなと、毎晩優しい唇に酔う僕は開き直った。 「あ……っ、りっくん、……りっくん……っ」  りっくんを繋ぎ止めるものが僕の体にあるなら、どんなことがあっても離さないでいてくれる。それがたとえ贖罪の気持ちであっても、りっくんがそばに居てくれるなら理由は何だっていい。  僕を束縛したがるりっくんに負けず劣らずなんだよ、強がりな僕も。 「冬季くん、うしろ……触ってもいいですか」 「あ、あの……その前に、最後に確認しときたいんだけど……っ」 「はい?」  ちゅ、ちゅ、と何度も落ちてきていた唇が離れてしまって寂しく感じた僕は、片肘を立てて振り返り、若いりっくんを見つめる。  返ってくる言葉は分かってるし、今さらあとには引けないってことも重々承知の上だ。 「りっくんはホントに……いいの?」 「何がですか?」 「いや、あの……僕と最後までしちゃっていいのかなって。ほら、りっくんいいとこのお坊ちゃんだし、跡継ぎとかさ……。いやでもその時は言ってくれたら、僕はちゃんと身の程わきまえてるつもりだから大丈夫! もう……僕ってば何言ってんだろうね、エッチする前にこんなこと言われたら萎えちゃうよね。ごめんね、りっくん!」 「…………」  無表情のりっくんは、マスクをしている時より感情が読めなかった。  ハハハ……と笑って流そうとしたけど、これは一人でいじってた時から考えてた僕の本心だ。  体まで繋がってしまったら、いよいよりっくんの逃げ場が無くなるかもしれない。……いや、僕自身もそういう気持ちがあった。  すぐに不安に陥ってリスカしたくなる僕を安定させてくれてるのは、りっくんが毎日与えてくれる無償の愛。  これが無くなってしまった時のことを考えると、これ以上踏み込んだら僕はホントにりっくんから離れられなくなっちゃうんじゃないかって……怖かった。  りっくんを繋ぎ止めておきたいと思ってる一方で、最悪の事態を想定して勝手に恐怖を感じてしまう僕は、相変わらず弱いままだと思う。 「言いたいことはそれだけですか?」

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