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甘い毒と、背徳。*

「葵、ほらさっさとかえんぞ。」 「荷物!いいよ全部持たなくて。俺にもよこして。」 「お前はこっち。」 退院してもいいですよ。と許可をもらったその日、一人で帰れると何度も言ったのだが、悠也が迎えに来た。 ぎゅ、と、指を絡めるように繋がる手を見て、年下のくせにと少しだけむっとした。所詮照れ隠しなのだけども。 「葵さ、きいちにいったろ。あの時のこと。」 「ん?ふふ、どうかなぁ。」 繋がれた手はおおきく、背は見上げる位まで成長した悠也クン。なんだか呆れたような目で俺のことを見てくるが、照れ隠しの意趣返しだと思って見逃してほしい。 「あの後、ラブロマンス!益子の癖にぃ!!全僕が泣いた!!爆発しろぉ!!とかいってだる絡みされるわで大変だったんだけど。」 「あっはは!きいちくんの真似?似てる似てる!」 「はしゃぐじゃんすぐに。もー、」 あの後、きいちくんには何が合ったのかは話した。 握りしめてた写真、あれは二人の誓いなのだ。 指輪を嵌めて、また同じ写真を撮れる日を目指したい。悠也がモノクロに拘ったのは、過去に囚われず進むための作品を作っていきたい、という信念からだと教えてもらった。 みんなが俺の写真館に来る筈だった前の日、悠也はその写真を見せて言った。 ーこの写真に色をつけられるのは葵だからだ。他人にとってはただのモノクロでも、俺にとってはちゃんと色がついて見える。それって、どういう意味がわかるか? ーわかるよ、何度も伝えてくれた言葉の意味も。 そう返した。悠也はいつしか言葉も敬語じゃなくなってた。最初はカッコつけて敬語で話してたけど、それだから恋愛対象として見られないんだろうと思い直したらしい。それを、本人に言うのもおかしな話だけどね。   「キスしたの、写真見て、思い出したら体熱くなったんだ。」 「聞いた。きいちからだったのは癪だったけどな。」 ぎゅうっ、と繋ぐ手に力が入る。俺も悠也も、互いがそこから体温を共有したかのように顔が熱くなっていた。 「発情期の原因、まさかの俺って…」 「うう…ごめんね…」 顔を手で覆うように呟く様子に居たたまれなくなる。悪気とかない分コントロール失っちゃった俺も大概だけど、自分が自覚したことが一番大きいのだろう。 あの時触れ合った唇の柔らかさを思い出して、思わず指で辿ってしまう。 「葵、家でいいんだよな?」 「写真館にはよらないかな。」 「ん。分かった。」 自分より8個も下だ。キスしただけでも犯罪臭いなと改めて思ってしまう。俺、バレたら捕まったりするのだろうか。 そんなことを考えながら内心ビクビクしているうちに、住処についた。 「まーーた変なこと考えてんだろ。鍵くれ。」 「いや、犯罪臭いなって‥」 「………もーーーーー、キレるぜそろそろ」 催促する手に鍵を渡すとがチャリと音を立てて扉を開く。よく考えたら渡さなくても自分で開けられた。そんな事も失念してしまうくらい、なんだか動揺した。 「ごめんって、ぉわ…ととっ、」 ガタン、と後ろ手に悠也が扉を締める。振り向く間もなく後ろから何故か掬い上げるかのように膝と背に手を回され抱き上げれると、そのまま部屋につれてかれる。 「歩けるって!おい、流石にこの運ばれ方は嫌だ!」 「うっせー!俺の好意に尻込みする葵なんかの言うことはきかん!」 「子供みたいなこという…」 「ガキですしねぇ?」 教えたことないはずの寝室まで連れて行かれると、そのまま優しく降ろされた。二人分の体重を支えたマットレスは、抗議を上げるかのようにギジリと鳴いた。 「悠也?」 「葵が大変なときばっか、そばにいてやれねー。」 強く抱きしめられ、肩口に顔を擦り寄せたままポツリと言われた。 ベッドの上で、高校生の悠也に抱きしめられるという状況でも、その言葉はしっかり耳に残った。 「…いーよ、むしろ、情けない姿見せたくはなかった位なんだけど?」 「見せてくんねーの、大人だからだとか言ったら今度こそキレるぜ。」 「うっ、」 オイ、と図星を突かれて思わず固まる。ゆるゆると広くなった背中に手を回すと、宥めるように撫でた。 「大きくなったね悠也、前は包み込めたのに、今は逆なんだもんなぁ。」 「まだ成長期だぜ。ふふ、」 「なんか嬉しそうだね?」 悠也が楽しそうに笑うのが好きだ。まだまだ身長も伸びているらしいし、そのうち首が疲れてしまうかもしれないなと考えて、思わず笑う。 二人して、クスクスと笑いながら、首筋に掛る吐息が擽ったくて首を竦ませる。 振り向くと、悠也の顔が至近距離にあった。 「…、ん…っ、」 瞬きの合間、ふにりと柔らかい唇が重なる。二回目の口付け、一度目も二度目も、悠也としかしていない。緊張のあまり固まる俺を宥めるように、優しくあやされるように髪を撫でられる。 「ぁ、っ…んぅ、っ!」 「ん、口…開いて」 「ひ、ひらく…?」 あぐ、と悪戯に下唇を甘噛みされて体が跳ねた。口を開くようにいわれるがまま、そして、訳もわからないままかぱりと咥内を晒した。なんか、これはずかし… 「ふ、…」 吐息を漏らすようにして、至近距離で微笑まれる。悠也の整った顔が優しく緩むのを見て、思わず腰のあたりが甘く痺れた。 「ひ、ぁ…ふっ…んむ…っ」 鼻先がすり、と触れ合った刹那、ぬるりとした肉厚の悠也の舌が俺の舌と触れ合った。甘噛みされ、吸い付かれながら唾液を飲み込む。知らないキス。子供だったはずの悠也がする、俺の知らない大人の口付け。 「ぁ、ぁっ…ふ、んぅ…っ」 「ン…、息吸え、そう…上手。」 「ふ、は…っ…」 息継ぎの合間に、だらし無く垂れた唾液を悠也が舐めあげては、やり直しとばかりに再び口付ける。 頭がおかしくなるような、酩酊感にも似たこれは、酸欠のようで、それでいて甘く全身に拡がっていく毒のようだった。

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