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愛しい約束
このまま、溶けてなくなってしまいたい。俺の腰を鷲掴かむ悠也の手が、そして繋がったそこが、ドロドロになった俺に輪郭を持たせるように存在を主張してくる。
「ァ、ん!ぁ、あ、あ!は、ぅ…い、い…いいよ、ぉ…っ!」
「ぁ、おい…あおい、くそ…中、とけそ…っ」
「ふ、ぁ…ぉく…ぉくきもひぃ…す、き…っそこ、ぉ!」
何度となく足を抱えあげ直されては穿つように、奥へと性器を押し込まれる。腹の奥にある、熱源を目指すように何度も、何度も。
過ぎた快楽に涙が止まらない。俺は初めての筈なのに、最初からこんなに翻弄されるなんて…
揺さぶられては、乳首に吸い付かれる。そして思わず締め付けてしまうと、律動をやめてこじ開けようと奥に何度も押し付けられる。その強い刺激のたびに、何回も悠也の背中には俺がしがみついた跡が刻まれた。
「ぁー‥、っあ、あっ…ひ、…!」
「ぐ、っ…ごめ、出す…。」
「ぁ!や!な、なかだめ、なか…やだぁ、あ!っ」
「ぐ、あ…っ!」
腹の奥に、熱い奔流が叩きつけられる。まるでごくりと飲み込むかのように、何度も胎が収縮して悠也の精液を逃すまいと取り込んでいく。
出し惜しみするなとたしなめるように、名残惜しく何度もじゅぱ、と吸い付きをくりかえす胎内に、何度も腰が震える。
「ぁ、ぁ…っ…う、そぉ…っ」
「は、ぁ…っ…はぁ、っ…あお、い…」
飲みきれなかった精液が、結合部から情けない音を立てて零れる。そんなかすかな刺激にも、出したばかりだというのに、みちりと一回りおおきく膨らむ性器に目を見開いた。
「ひゃ、…ゃ、…なん…で、また…っ」
「すまん、まだ…足りない」
ゆるゆると動き始めた腰使いに、ちょっと待ってと声を上げようとしたが、悠也の熱い舌と唇によって、再び溶けるような快楽の波に飲まれるのだった。
「ふ、…」
視界が霞む。なんだか瞼が重く晴れているような感じがする。全身の倦怠感が酷く、体を投げ出したベッドから少しも動くことができなさそうだ。
「あ。…おきた?」
キシ、スプリングの微かに鳴く音と左上が少しだけ沈む。何度も瞬きを繰り返して視界を明瞭にしてなんとか意識をそちらに向けると、酷く心配そうな顔をした悠也が覗き込んだ。
「ゆ、や…」
「おお、声がやばいな。水持ってくるからちょっとまってて。」
緩く頭を撫でると、そのまま水を取りに行った。
なんだっけ、頭がふわふわしていてまとまらない。全身の重だるいような疲労も、何だか緩やかに広まってそのまま身を任せたくなるような心地よさだ。
シーツの肌触りが素肌に優しい。
肌触り…、と疑問に思ったとき、悠也が扉を開いたと同時にがばりと起き上がり、腰の鈍痛に呻いた。
「ぃ、…いっ!」
「おわ!…葵、そんな早い動きするんだな。てか大丈夫?」
「…、…いたい。」
「だろうね。」
ほい、と痛みを耐える俺の頭にペットボトルを置かれる。受け取るもなんだか手に力が入らないのでキャップを握りながらゆっくり体勢を整えた。
「はらへった…」
「まかせろ。葵が寝てんときに買っといた。」
「たまごがいい。」
「抜かりなくある。ほれ、あと開けてやるから寄越せ。」
がさりと手に持ったビニールの中からたまごサンドを取り出した。俺のお気に入りのパンである。どうやら甘やかす気満々であるらしく、年下のくせに準備が良すぎて少しだけ悔しい。
カチリとこ気味いい音を立てて渡された麦茶もよく飲む銘柄で、こんなとこまで観察されていたようだ。どうだ!と言わんばかりの笑顔が可愛いけども、照れるからムッとした顔だけでとどめた。
「体平気か?」
「おかげさまで…」
腰が抜けるかと思ったけど、するりと触った自身の項に噛み跡はない。なんとなく寂しいような、ほっとしたような微妙な気持ちが顔に出てたのか、悠也はクスクス笑った。
「必死で我慢したけど、そこまで残念そうにされるなら噛めばよかったかな。」
「ん!?な、なん、まだだめだ!」
「わーかってる、ほら」
するりと手を取られて指を絡ませられる。そのまま悠也が口付けたのは俺の薬指だった。
「あ、」
べろりと舐められたそこには、シンプルなシルバーの指輪が嵌っていた。冷たい銀色のはずなのに、なんだかひどく熱を持っている。その原因が俺の体温が上がったからだと自覚したのは、冷たい悠也の手が顔を優しく包んだからだ。
「やすもん。だけど、それも含めてもうちっとだけまってて。」
「っ、なんで、こんな…」
「俺が嫌なの!俺のわがまま。年下の余裕のない独占欲ってやつ。言わせんなっつの…」
耳まで赤くして、そんなことをいう。恥ずかしそうに頭をかく手首には真っ赤に腫れた歯型が付いており、それだけ我慢したのかと思うとなんだか泣きたくなった。年下で、と気にしまくる俺よりも、ずっとずっと悠也は大人だった。腫れた手首をそっと触れると、ビクリと体をはねさせる。痛えの!と逃げる腕をギュッと抱きしめた。
「え?本体に抱きつけよ。」
「自分の手首、かんだの…痛かったろ。」
「葵の項だと思って噛んだけどクソ痛い。葵の噛むときは優しくするわ…」
「痛くていいよ、俺の時は…残るぐらい噛んでね、」
手のひらに口付けながら悠也を見つめる。びっくりしたような顔で、耳だけだった赤みがぶわりと顔を覆う。その様子がなんだか可愛くて、ぎゅうっと頭を胸に抱き込んでケラケラ笑った。
「あは、も、…ほんと、悠也…」
「っ、おい!」
「ん…可愛い、俺の悠也…」
「ぐ…これが生殺しか…」
ぎゅうぎゅう抱きしめながら寝っ転がる。お腹が空いて仕方がなかったはずなのに、今は食欲よりも悠也を可愛がりたくて仕方なかった。
頭をなでながら、おずおずと腰に腕を回して抱きつく姿に、この可愛い年下の男をとことん甘やかしてやろうと心に決めた。
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