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決意 *

「っ、う…ン…ぁ、」 耳元で押し殺したような掠れた声を上げる、きいちのすこしハスキー気味な声が甘えたように声色を変える、この瞬間が好きだった。 結局きいちは許してしまった。俺の、俺だけのものなのに。 はふはふと苦しそうに呼吸を繰り返す姿に少しだけやり過ぎた気もしないでもないが、どうしようもなく焦燥に駆られてた俺を見かねて、甘えさせてくれた。 「ぁ…しゅ、んくっ…それ、も…や…」 「まだだめ。」 「ひ、ぃぅっ!ぁ、あだめ、っ」 ぢゅ、と再び蕾に吸い付く。ここは酷く熱を持ち、薄ピンクだったそこか俺のせいで赤く膨れ上がっている。まるでグロスでも塗ったのではと思うくらい、濡れたそこは物欲しそうにひくりと震える。 「痛い?平気か?」 「ゃ、ぃたくない…から、も…くちやぁ…っ」 ぐしっ、と鼻をすする音がする。やりすぎて泣かせたらしい。しばらくは行為はしないほうがいいだろうと先生から言われたらしく、甘える俺に申し訳無さそうに告げた時の顔が可愛いくて可愛いくて、なおさらむかっ腹が立ってしまったのだ。 俺のなのに、なんで 眉間にシワを寄せたせいで顔に出てたのか、思わず顔を覗き込んだ俺の眉間に指を当て揉みほぐしてくれた。 「も、…い…?」 「ん、なに?」 「怒って、ない…?」 困ったように、伺うように頬をシーツにくっつけたまま見つめてくる。怒ってないといえば嘘になるが、それはきいちに対してではない。なんと答えていいかわからなくて、その濡れた瞼に口付けた。 「くち、」 「舐めた後はやだとかいってなかったか?」 「ぅ…うっ、」 「…わかった」 前に蕾を舐めたあとに口付けするなと言われていたのを思い出したから聞いたのに、もうその約束はいいのかじわじわと涙をみせて愚図る。こうなると俺は弱い。きいちが行為でよく泣くのを心配して、痛いのか聞いた時、顔を真っ赤にして気持ちよすぎて…と言われてからは殊更涙に弱くなった。 濡れた唇を唇で挟むように甘く喰む。微かなリップ音が性感を刺激するのか、もぞもぞと足を擦り合わせる様子に、少しだけ加虐心をそそられる。 「ん…、自分でできるか?」 「はふ…っ…や、しゅん…やって…」 やわくきいちの性器を握ると、ゆるゆると擦り付けるように腰を揺らめかす。無自覚に煽るような行動に張り詰めてしまい少しだけ痛い。插入はしない約束なので、ジッパーをさげて性器を取り出すときいちの性器と重なるように握りしめた。兜合わせと言われるその行為は、視覚的にもひどく高ぶってしまう。 「ぅ、んんっ…っぁ、っあ、っんぁ、」 「んぁ、…お前、先走りすげぇな、…そんな、イイ?」 「ぁ、ぁあっ、ぁ、ゃ、いいっ」 「は、可愛い…」 にゅくにゅくと溢れて止まらない先走りをまぶしながら、腰も揺らめかせる。きいちの臍の下のあたりまである俺の性器を顔を赤らめて見つめてる様子が何だかおかしくて、きいちの両足を大きく開くと性器を握る手をきいちに任せた。 「ぁ、あっい、いっ、ぃくっ、はぁ、あっ」 「は…っ…わり、…っ、顔にかけていいか?」 「ひぁ、っ…い、よっ…ぁあっ!」 「っ、ふ…ぁ、」 きいちがイくタイミングを狙い、中指を一本だけ中に入れた。待ちわびていたと言わんばかりに指一本を歓迎されたのか、酷く柔らかい媚肉にきゅう、と甘く締め付けられる。刺激にきいちが腰を震わせてトプトプと精を漏らすように吐き出したのをみて、限界まで張り詰めた性器をきいちに向けて吐き出した。 「あ、つぅ…っ…」 「馬鹿、そんなん舐めんな。」 口端についた精液をペロリと赤い舌で舐めとる様子に再び兆しそうになる。頬についたそれを拭うように取ってやれば、楽しそうにくすくす笑う。 恐らくマーキング的な意味合いはなんとなくわかってるのだろうけど、口には出さないところを見ると俺の性格を良くわかっている。 なんとなくそれが悔しくて、ティッシュでごしごしと自分の出した精液を拭い取った。 「ふぁー…、おしりさびしい。」 「言うな、」 よっぽど物足りないのか俺の指をかぷかぷと甘噛みしながら舐めてくる様子に、ぐ…っと試されているような気がしてならない。完全に意識していないでの行動だとわかるからなおのこと質が悪い。 覆いかぶさるように抱きしめてぐるんと体制を変える。俺が見上げる形になるように腹の上に乗せると、くぁ、と小さく欠伸をした。 「んふ、あったかい…」 首の下にこてんと頭を預けるようにして甘えてくるきいちをなだめながら、片手間に布団をかけてやる。スマホの画面を確認すると、あと2時間ほどで忍が帰ってくる頃合いだった。 「一時間だけ寝るか、起きてシャワー浴びたら丁度いい時間だし。」 「ふぁ、あーい。」 「あくびと返事を混ぜるなって」 むにむにと口を動かしながら完全に寝る体勢になったと思えば、すぐにすやすやと規則正しい寝息が聞こえてきた。 背中に腕をまわして抱きしめながら、まぶたを閉じた。決意は固まった。11月まであと2ヶ月、しばらくは準備やらなにやらで慌ただしくなるのできいちには寂びしい思いをさせるかもしれない。 忍に話したら滅茶苦茶に反対はされたが、理由を話したら正親、父親の方が珍しく同意を示してくれた。 同じ性を持つ同士で思うところがあったんだろう、忍もお前が後悔しないなら好きにしろと言ってくれた。 こいつにはまだ言わない、だけど晃さんには実はもう伝えてあった。 忍のように反対はされなかったが、よっぽど面白かったのか手を叩いて爆笑された。俺もそう思う。自分の子供だったらもっと早く言えとも言っていたと思うしな。 ただ自分の決めた道で後悔はしたくない。もう手が届かなくて守れなかったとか、そういうのは懲り懲りだった。きいちはどう思うだろう、馬鹿じゃんと言って笑ってくれるならそれでいい。 この腕でだらし無く涎垂らして寝ている好きなやつが、幸せだったら俺はそれで満足だった。

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