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未来のカタチ

翌朝、朝っぱらから昨日の余韻で心地の良い気だるさの中で目を冷ました。わりかし早めに起きたのは、昨日の情事でやらかしてしまった諸々の始末をつけるためだ。 ブブ、とスマホの通知が来たことを確認し、SNSを開くと吉信さんからメッセージが来ていた。 ー今から一時間後に晃を起こして風呂にはいるので、使うなら早めに。 吉信さんもリビングで仲良くしていたということか。俺たちがきいちの部屋に上がった時点で察してくれたのもあるだろう、アルファの欲求が抗えないのを知ってい分、変に気を使わなくていいのは楽だった。 ひとまず今から一時間ですべて汚れ物の後始末だ。と言ってもきいちが寝てる間に、育代やらタオルやらゴミ箱を綺麗にするくらいだ。すぐに済むだろう。終わったらきいちをおこして、一緒にシャワーでも浴びよう。そうとなればさっさと終わらすのがいい。 吉信さんに、汚れ物があれば洗濯機を回しとくので出しといてくださいとメッセージを送ると、宜しくお願いしますと返事が来た。 洗濯機の勝手などどこの家も同じなので、使っていいと言われたのならこれくらいはすべきだろう。 浴室に行きがてら、二人の部屋の前に丸めて置かれたシーツも抱えあげて、一人風呂場に向かった。 「信じらんない。デリカシーのデの字もねぇのか。」 「いや、ほら…よかれと思ってだな。」 「いや、俺が提案したことなんで…吉信さんだけが悪いわけじゃ、」 「俊くん僕まだ怒ってるよ。」 「いや、はい…ほんと、すんません。」 現在吉信さんと俺はリビングの床に正座させられたまま、互いの番に怒りの矛先を向けられている。 原因はそれぞれ違っていて、吉信さんは自分たちの情事の汚れ物を俺に洗濯させたこと。俺は、きいちとの行為を吉信さんの協力の元だとバレたことと、朝からまた泣かせてしまったことについて。 「だいたいなんで吉信に今晩しますとかいうの!そーゆーのは秘密にするでしょうが!しかも2回も朝から!ばか!しゅんくんのばか!えろ!」 「配慮するから、するなら言えと吉信さんが言ってくれたからさ…」 「吉信てめぇが発端じゃねーか!!」 「だっておまえら恥ずかしがりやだろう。俺たちが気を配らなきゃリラックスしてセックスできな」 「気を配るとこそこじゃねぇって毎回言ってんだろうがボケナス!!」 吉信さんが、言い訳のようにあわあわと取り繕っているが、晃さんのヤンキー語録は留まるところを知らない。罵倒となればこの人に適う人はいないだろう。きいちの小学生みたいな語彙力が可愛く思えるほど、攻め句は熾烈だ。 最終的に吉信さんが死にそうな顔で、こっちのが効率いいと思ったんだもん。とか言うもんだから、余計に晃さんのボルテージが上がっていた。 「ばか!ばかおたんこなす!俊くんのきょこん!うまなみ!」 「後半罵倒なのかそれ…次からは言わないようにする。」 「次やったら冬休み中えっちしない。」 「え、まてまてそれはさすがに」 「しない。」 「わ、わかりました。」 結局吉信さんと俺はお互いの番とのセックスに配慮する位なら、泊まったときはしないという話に纏まった。まさかの二人して正座をさせられるというイベントに、俺も将来きいちから吉信さんのような扱いを受けることになるのだろうかと若干慄きながら晃さんをちらりと見た。 やっぱり晃さんはきいちの母らしく、横顔が似ていた。大人になったらきいちもこんなふうになるのだろうか、とまじまじと晃さんを見つめていると、隣で吉信さんが咳払いした。 「晃はきいちに似てるだろ。やらんぞ。」 「だめだよオカンは!!」 「あ、それはもちろん。」 こんなときだけきいちは吉信さんと同じ意見で、少しだけ晃さんが照れくさそうにしていた。俺がきいちと結婚したら、こんなふうに楽しい家庭にしたい。そんなことを思いながらくすりと笑うと、きいちは頬を染めながらむくれていた。 「俺たちも晃さんと吉信さんみたいになろうな。」 「うぅ、…そういうのずるい。」 こそりと、きいちに聞こえるくらいの声で言った。途端にぶわりと、顔の赤みが増して恥ずかしそうにしながら俯く。白くて細い首筋には、昨日俺がつけた痕が残っていて色っぽい。 きいちはこれからどんどん綺麗になっていくだろう。俺に抱かれて少しずつ柔らかくなる体がひどく愛しくて、するりと細い指先を絡めて握りしめた。 「よく言った。さすがは未来の旦那だ、俺のことはお父さんと呼びなさい。」 「俊くんが吉信みたいになるとかイメージ沸かねぇわ。まぁ、愛想つかされないように頑張れ。」 「嘘だろう!?俺たちは今も変わらずらぶらぶだろ!きのうだってあんな」 「そぉおおいうとこ直せつってんだわダボが!!!」 晃さんの怒声も、違う角度で見ると照れ隠しだ。 現に吉信さんの口を細い手で押さえながらも耳まで赤くしているし、腰に回った腕に文句もいわない。 なんだかとっても可愛らしい夫婦だ。 それをボケっと見ていたきいちが、ゆるゆると指を握りかえしながらケッと小さく不貞腐れるふりをした。 やっぱりきいちは晃さんの子供で、今からその片鱗を見せつけられたような気がして、俺はなんだかそれが面白くて、ちょっとだけ笑った。

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