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僕の愛しい家族達
3日ほどで僕の体は落ち着きを取り戻し、項を噛まれたことによりフェロモンも俊くんしか作用しなくなった。噛まれる前と後では心の持ちようが全然違う。強い繋がりができた今、俊くんいわく全体的な雰囲気がなんかちがう、だそうだ。
「はい、めちゃくちゃ犬歯喰い込ましたね。これじゃ、きいちくん痛かったでしょう。」
「あたまふわふわすぎてあんまり…でも撚るといたいかなぁ。」
「…すまん。」
休暇最終日に、俊くんと一緒に項の具合を見てもらうために新庄先生のところに行くと、それはもう満面の笑みでおめでとうといってくれた。僕の項はそれはもう見事にくっきり俊くんの歯形が付いていて、腕の歯型に比べて遥かに深い傷のそれは瘡蓋になった今は少しだけグロテスクだ。写真撮ってもらって見た僕は、これ致命傷なのでは!?と思うくらい血まみれだった。執着がすごいねぇと新庄先生は言っていたが、照れる俊くんに対しては雄の本能だから仕方ないだろうけど、野生化するのは褒めてないかなととどめを刺していた。
「野生化…」
「俊くんはヒートの度本能全開だと僕も思うわ。」
「アルファのための無駄噛み防止の口輪でも買う?保健きくよ?」
「あっ、資料だけください。」
ほいよ、と渡されたカタログをみて慌ててる俊くんが面白い。冗談だよー!と言うつもりが、わりとマジな感じで新庄先生がおすすめに丸をつけ始めたので口を噤んだ。いやほら、空気的にね?
「ヒートの休暇は今日で最後?」
「最後!明日には学校もどるー、修学旅行後の土日休みはさむと一週間くらい行ってないなぁ…」
「そういえば明日の午後に益子くんも病院行くとか言ってたから、二人も無事番ったんじゃないかな?」
「ええ!!まじ!!益子登校してきたらお祝いしなきゃなぁ…」
そうかそうか、ついに忽那さんと益子もそんな感じになったのか。でも、ヒートはたしか僕と一週間ズレくらいとか言ってなかっただろうか。そうすると早くない?ふとそんなことを疑問に思って先生に聞くと、ニコニコしながら教えてくれた。
「通じ合ってるなら、アルファ側の誘発フェロモンで早めて番う、ってのもあるから、それじゃないかな?」
若いのに、その人しかいないって思いが強かったんだねぇ、と益子が聞いたら照れて死ぬんじゃないかというくらいの爆弾発言をしていた。なるほど、さすがである。年上のエッチなお兄さんを逃したくなかったんだろう、まあ確かに忽那さんも益子も好き合ってたし、出会いもロマンスだったしな。しみじみ頷いていると、でもね?と続けた。
「無理矢理相手の発情期の期間を早めるわけだから、それなりにオメガ側の負担も増えるよ。僕は我慢の聞かない馬鹿というレッテルを貼るけどね。」
スン。という顔で何故か俊くんを見つめる新庄先生の目から逃げるように勢いよく顔を反らした俊くんは、後に、異様な殺気を感じた。と、すこしビビりながら語っていた。
明日の益子は新庄先生による楽しいアルファの心得教室という名のお仕置き部屋に行くことになるだろう。吉信いわく、新庄先生の授業中に口答えだけはするな、絶対にだ。とのこと。あまりに真剣な口調で言っていたから余程のことだろうけど、面白そうだから益子には黙っていよう。
結果は良好、ということで項の消毒もバッチリである。ただ、傷口だからといって過度な運動は控えるようにとのことだった。項には大きな絆創膏が貼られているので、周りから見たらすぐわかるだろう。
オカンと吉信に報告すると、今宵は桑原家で宴じゃと野盗の頭みたいなことを言っていた。
病院帰りにそのまま俊くんちにいくと、めちゃくちゃご機嫌な忍さんが飛びついてきて、二人まとめて後ろにいた俊くんに受け止められるというギャグみたいな現象が起きて、俊くんに注意されていた。
「忍!傷に響くだろうが!」
「おっと早速旦那面かぁー?おーおー、でっけぇ絆創膏つけて。これて晴れて片平から桑原きいちになったなー!よろしく息子!」
「おあ!!そうじゃん!?!?どどど、どうしよう、学校に届け出出すべき!?!?」
「番登録だけはだしとけ。緊急連絡先は…忍と晃さんでいいだろ。」
ここでお互いのおとんの名前を出さないところがお察しである。
「晃もさきくるって。吉信はしーらね。正親とくんじゃね?」
「珍しく残業ないのか。」
「息子が増えましたって言ったらすぐ帰るって。」
「絶対それ誤解してる気がする…」
この間仲良くしたのを知ってるらしい俊くんはなんとも言えない顔をしていた。正親さんの事だから、俊くんに弟ができるとか思ってそうだ。そして忍さんのことたから、きっと勘違いを想定して煽ったんだろう、悪戯好きの性格を俊くんは受け継がなかったみたい。
「ん?てか勘違いしても、こんな短期間で性別なんてわかんないよね?」
「そこはほら、正親だからさ。」
忍さんが諦めたように肩をすくめる。悪戯しても、番の言い分は8割信じ込むらしい。
「こないだたって、忍が美少女戦士になりたいんだよねとか言ったら仕立て屋連れてかれそうになってたしな。」
「美少女は性別からして無理だけど、美青年戦士の戦闘服はスーツがセオリーだとか言ってさ。」
「嫁の悪ふざけにオーダースーツで四十万の生地取り置きしてやがった。」
「うわぁ…」
結局そのスーツは俊くんの戦闘服として忍さんがなんとか話の流れを軌道修正して仕立てたらしい。
息子にいいスーツを買ってやる正親のかっこいいとこみてみたい!みたいなホストまがいのコールに見事陥落したようで、とばっちりを食らった俊くんは終始不機嫌だったとか。
「今度そのスーツきてるとこみしてね」
「気が向いたらな…」
絶対見せてくれないやつやないかい。
その後酒片手に合流してきたオカンと、やっぱり忍さんが二人目が出来たと勘違いした正親さんがベビー服やグッズ片手に満面の笑みで帰宅して、忍さんとオカンに爆笑されていた。
しかも何故か買ったグッズはなぜか僕らに押し付けられた。気が早いにもほどがある!
正親さんいわく有効活用らしいが、俊くんが頭の痛そうな様子を見る限り、ここまでの流れまでがいつもどおりらしい。忍さんも諦めたように放置していた。
「きいち。」
名前を呼ばれて振り向くと、オカンががしりと肩に腕を回してきた。
「おめっと。」
「…あんがと。」
オカンの顔が、なんか気恥ずかしくなるくらい優しく微笑んでくれていてどぎまぎしてしまう。お互いふざけることが多すぎて、こんなふうに改めて言われるとどうしたらいいかわからない。
思わず照れ隠しでがばりと抱きつくと、笑いながら受け止めてくれて、頭をワシワシと撫でられた。
「おや、息子と嫁が可愛いことをしている。」
「あ、吉信。」
おとんもどうやら駆けつけたらしい、そしてニコニコしながら僕の頭をなでたあと、忍さんにそっと紙袋を渡して言った。
「おめでとう、どうやら二人目ができたみたいだねぇ。」
「……まじかよ。」
桃色のクマが可愛らしい紙袋は、先程正親さんから俊くんに回ってきたあの紙袋と同じ物である。
なんとも言えない顔をしながら受け取った忍さんの頭を、まるで戒めるかのように俊くんがべしりと叩いた。
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