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本能に忠実
益子が熱を出してから一週間。
しばらく早退やら遅刻やらを堂々と繰り返していた益子だが、なにやらきちんと届け出をしていたみたいで先生からはやかましいことを言われることはなかった。どうせまた仕事かなどと思っていたら、どうやら様子は違うようだった。
「きいち、ちょっと。」
「んえ?」
珍しい事に、やけに真面目な顔をした益子がちょいちょいと手招きをする。クラスでは話し辛い事なのかとなんとなく察し、よいせっと立ち上がると何故か俊くんもついてきた。
「え、俊くんもついてくんの?」
「だめならいいが…」
しょぼ、と若干声のトーンが下がる。益子を見ると、二人セットで構わないからちょっときて!!とオーケーを出されたので、俊くんの手を握るとそのまま益子についてクラスを出た。
「なんだよぉ、てかいい加減ノート返せよなあ。」
「おう、後でノート返すわ。取り敢えずこっち。」
部室の鍵を持っているということは、写真部に向かうらしい。確かにそこなら静かに話せそうだ。
病み上がりなくせに、なんだか落ち着きがない。
俊くんはなんとなく察したのか、おめでとうと言った。
「待て待て早い早い。」
「なにがなんだか…」
「言う、言うからまだ言うな!」
にやつく俊くんの様子に慌てながら、ガチャリと部室を開けると僕ら二人を招き入れる。
やけに厳重に施錠を確認すると、ゆっくりと振り返って深刻そうな顔をした。
僕は益子のそんな様子を見たことがなく、尻の座りが悪い。ドキドキしながら口を開くのを待っていると、むず…と益子の口元がにやけた。
「この間、ヒート来たんだよ。葵の。」
「え、あ、あのとき?」
「そう、お前が来たあとな。」
へぇ、と言おうとして首を傾げた。一週間の益子の行動はヒートの届け出をだしてたから?
いやまてまて、ヒートならなんでそばにいてやらないんだ。というか葵さんって唐突にヒート来たときもあったよな?と思い出し、僕とヒートの周期近くなかったか?と更に疑問が膨らみ、ますます首を傾げることになった。
「え、まてまて僕頭悪いからわかんなくなっちゃった。ヒートって3ヶ月周期じゃね?ちがったっけ?」
「普通はな。」
「おや、俊くん知った口聞くじゃん?」
益子は意外そうに俊くんを見る。得意げになっているのが可愛い。そういえばヒートでぶっ倒れたとき俊くんも一緒だったんだっけ。そのときに新庄先生にオメガとは何か、色々聞いたのだろう。
「全部お前きっかけのヒートばっかだったもんな。今回もか。」
「そー、葵のヒートが遅れてたの気づいてやれてなくてさ。フェロモン使ったら一気に、んで、多分妊娠したと思う。」
「え。」
ぽりぽりと頭をかきながら照れくさそうにする。いやいやまてまてちょっとまってえ!?
「益子おまえ無理やり手籠めにしたのかぁ!!!!」
「うわばかやめろ!」
「おい、腹の子に障るから程々にしろよ。」
「いやちゃんと止めてぇ!?」
ばかすかと益子をぶっ叩きながら抗議する。こいつ前回も葵さんを無理やりヒートにさせちゃったとか言ってなかったか!?わすれたけどたしか新庄先生がそれでぷりぷりしていた気がする!!
「この歩く性器!!甘納豆乳首!!いくら同意したとしてもあんな小柄な人にがっついたら壊れちゃうでしょうが!!!まじでこのカメラ小僧め!!貴様のちんこもぎ取って望遠レンズにしてやろうかあ!!」
「俊くんのときよりもボキャブラリー多くない!?!?あだだだだお前も見てないで止めろぉ!!!」
僕の怒り具合かよくわかったようで何よりだが俊くんが甘納豆乳首で吹き出して震えていた。今は止めてくれるな俊くん。ぼかぁ葵さんのためにもこのおバカに身の程を教えなければならんのじゃ。
「新庄先生に言いつけてやる!!」
「それだけはいやだぁあ!!!!」
余程前回のアルファの心得教室が恐ろしかったのだろう、目に見えて顔を青ざめさせると自分の身を抱くようにして悲鳴を上げた。
俊くんをみると若干顔色が悪い。え、みんな新庄先生にビビり過ぎでは?
「と、とにかくだ!きいちにたのみてーことがあるんだよ!」
「なんだ狼藉者。」
「いや時代劇じゃねんだわ、葵の事気にかけてやってくんね?」
「葵さんのこと?」
それは全く問題ないからいいのだが、なんだかまた不安定になってるのだろうか。妊娠したかどうかは一ヶ月立ってみないとわかんないだろうし、益子は自信満々にしてると言ってるあたり抱かれ過ぎての疲労困憊か?なんだか益子に対してまた腹が立ってきたのでべしりと腰を殴った。
「おうふっ、おま、俺の腰がこわれちゃうでしょうが!!」
「てか、一応きいちも妊夫だからな。気にかけんのはいいけど無理させんなよ。」
「もちのろん!!てか、葵がきいちにあいたがってるっぽいんだよな。」
オメガのことはオメガにしかわからんしねえ。と言うことでこれは緊急召集まったなしですわ。
「アルファ締めだして、オメガで集まって井戸端会議するかぁ。」
「なら学も呼ぶのか?」
「学もよぶ。おかんも呼ぼうかなぁ。」
「おおっ、常識人くるのか。」
「常識人っつか、うーん」
おかんが常識人というのはちょっと違う気がしないでもない。
「ということで、俊くん率いる俺ら旦那チームはどうしたらいい?」
「率いてねえ。」
「どうにでもなればかやろうっ!とにかく明日葵さんちいくわ。空いてる?」
「むしろ今日でもいいけど。」
ええ、行くのはいいけど起き上がれなさそうじゃね…と思った。
「てかヒート終わった?三日後とかのほうがいいかな。」
「いや、終わった。」
「え、一日で!?」
「だから絶対孕んでるっつったろ。」
自信満々に言っているところ悪いが、僕には全然意味がわかりませんっ!!いわく、楽しいアルファの心得教室で教えてもらったらしい。
相性がいい番はアルファの誘発フェロモンでヒートに入る。またヒートが数日ないし翌日で終わった場合は、妊娠している可能性が高いという。
アルファの誘発フェロモンがオメガのヒートを煽り、妊娠を早めるらしい。なるほどアルファもフェロモンを出すとオメガの子宮が機能すると。
「元々、葵のヒートがバラバラだったんだよ、前も俺が誘発させたし。そんときはまだ葵の体が俺に馴染みきってなくて子宮が機能してなかったんじゃねーかって。」
「おまえ葵さんの体が作り変えたのは俺ですとかいってんのかこのやろー!」
「俺が育てた!!」
「その顔がむかつくうううう!!」
むきいいいいとドヤ顔をする益子に飛びかかろうとして俊くんによって邪魔された。
小柄なオメガは体質的に成熟するのが遅い場合もあると俊くんがフォローを入れてくれたが、葵さんまさかの成熟が最近だったとは。
「葵の初めては全部オレだからな。成人してから受け入れたのが初めてだったら、ありえなくもないだろ。」
新庄先生からもいわれたらしい。葵くんはオメガとして成熟するのが少し遅いかもねと。本人には言われてないらしいが、小柄なオメガはとくに未通であればあるほどそこまでの通りが狭く、内部の刺激が呼び水となってゆっくりとその機能が活動し始めるらしい。
ヒートも安定するのに時間がかかるとのことだったが、益子が誘発させたせいで機能が目覚ましく動き出し、昨日のようにタガが外れたように蓄積されていたフェロモンが一気に出たとのこと。
「ってお前のせいか!!」
「うん、てか滲んでたんだって。いつもよりも香りが強いっつーか。それで俺もずっと興奮して熱出したしな。」
「なんつーか、アルファって…」
「言うな、俺等が一番わかってる。」
益子が襲いかかって抱き潰したのも、俊くん的にはわからなくもないらしく、なんとも微妙な顔をしながら納得していた。
もしかして僕も小柄だったらその可能性があったのか?というか、そしたら学だってそうなるかもしれないのか。
まじで本能に忠実だなアルファって。
そんなこんなで僕が葵さんのところに行くのは次の検診が終わってからということになり、最初は僕だけであってやってくれと言われたので了解した。
益子は自分がやらかしたとはおもってないが、無理をさせたので土日はしっかり甘やかしてやりたいとのろけやがった。
けっ!!と僕が久しぶりに言ったのは仕方がないと思う。
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