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今だけは。皐太side
「目の前にいるのが俺なら、俺のことだけ考えててよ。
悠眞、そんな暗い顔しないで、な?」
お願い。今だけでいい。
今だけは、俺のことだけを見ていてよ、悠眞。
する、っと悠眞の頬に手を伸ばし撫でた。
それは、自分でしようと思ってしたことではなくて。
――――手が自然と、動いた。
悠眞は目を見開き、瞼を閉ざした。
それは俺を受け入れているかのように見えて、拒否している。
「うん、ごめんね。
前に祭りに来た時、一緒に行ったのが拓巳だったんだ」
聞きたくない。だけど、知りたくて。
「祭りに来ると、どうしても拓巳のことを思い出しちゃって。
あの頃の拓巳は、本当に優しくて僕のことを大切に、考えてくれてた。
だから、どうしてあんなことしたのかなって、考えてただけ」
悠眞が俺に教えてくれた。
それだけでいい。それだけでも、心を許してくれているのなら。
「ごめん。・・・悠眞に、嫌な思い出蒸し返すようなことしちゃって」
「ううん。どっちも嫌な思い出じゃないんだ。
確かに、襲われたのは嫌だったんだけどね。
でも、そのおかげで拓巳のことをもっと知れたから。
それに、お祭りも、あの頃は楽しかったから。
今も、皐太くんと来れてすごい嬉しいし楽しいんだ」
「・・・そっか」
悠眞の中に、僕はいない。
・・・いや、正確には友人枠としてはいるのだろうが、恋人枠としてはいないだろう。
悠眞は、自覚していないようだが、その枠には拓巳とやらの先日の野郎がいる。
俺に、そこに入り込む勇気なんてあるのだろうか。
ない、だろう。
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