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海の話
「母さん・・・いつも、迷惑ばっかかけてごめんね?
今回も、・・本当、ごめん」
本当に、いつも、いつも、迷惑ばかりかけてる。
僕関連で、疲れさせてると思う。
また後日、病院で再検査するように、と先生にも言われた。
「そんなこといいのに。お母さんとお父さん、それだけじゃない、みんな、あなたの味方なの。
困ったことがあったら、いつでもなんでも言いなさい」
一つだけ、一つだけ聞いておきたい。
「・・・なら、一つだけいい?」
「ん?なに?」
「甘えるって、何だろう」
「そうねぇ・・・・・、悠眞はわがままをもう少し言っていいと思うの。
あれが欲しい~とか、これが食べたいとか、そういうのでもいいと思うわ。
頼ったり、するのもいいと思う」
「頼る・・・」
「何かを頼んだり、ね?」
「・・・分かった、ありがとう。
あ、後ね、今度聖人先輩と海に行くんだ」
「あら、そうなの?なら、今から水着買いに行きましょう!」
「え、いいの?」
「勿論じゃない。ほらほら、車に乗って?」
「分かった」
悠眞は、気付かない。
春香が、微笑ましく見ていたことに。
春香は、気付いている。
恋人ができたことに。そして、その恋人が、聖人だということに。
「母さん・・・、なんだかここ高そうなんだけど」
「そうかしら・・?」
てっきり母さんが運転するのかと思っていた車の運転席には家で見た執事さんが乗っていた。
その執事さんの運転で来た場所は、flowerという服屋さん。
見るからに、高そう。外観が高級感ありあり。
でも、母さんはここの常連さんのようで。
すぐVIP室とやらに案内された。
「失礼いたします、神風様。
本日は、ご子息様の水着を買いにいらっしゃったのですね?」
「そうなのよ~。いいのあるかしら?」
「ありますとも。つい先日入荷したこちらはどうでしょう」
「あら、これいいわね!悠眞、どう?」
母さんが僕に見せてきたのは水色とか青色とかが混ぜ合わさったじゃないけど青色系統の空みたいな綺麗な水着。
これ、好きだ。
「え、あ、・・・どれでもいいよ?
でも、僕羽織るもの欲しい・・・。流石に、恥ずかしい」
「分かったわ。ねぇ、ラッシュガード、あるかしら?」
「はい、少々お待ち下さい」
そう言って若い人は出ていったけど、すぐ戻ってきた。
さっきの水着に似た、薄水色のパーカー?みたいな羽織るもの。
丈も長いし、いいと思う。
僕、水色好きだし、これがいいな。
「悠眞もこれがいいみたいだし、この2つを買うわ」
「いつもありがとうございます」
「2つでいくら?」
「25万になります」
「また、よろしくね」
「御贔屓にしていただきありがとうございます」
「25万円も・・・・。本当、ありがとう。
それにしても、母さんよくあそこのお店行ってるの?」
「ええ。・・・気付かなかった?いつもあそこで悠眞の服買ってるんだけど」
「え、うそ」
「・・・ふふ、本当よ。あそこのデザイン、悠眞気に入ってるでしょ?」
「・・・・・・うん、今日の水着、僕好きだった。
母さんが買ってくる服も、結構好きなやつだし」
流石母、とでも言うべきか。
なんでも分かります。
「あ、そう言えば悠眞、長谷川くんと付き合い始めたでしょう?
私が・・・親が口出しするのもなんだけど、幸せになりなさい」
「え、・・な、んで知って・・・・」
「名字で呼んでたのに名前で呼び始めたところとか、長谷川くんの名前を言うと笑顔になったり・・そんなところかしら」
些細なことで、分かってしまう。
それが、母。
注意していても、気をつけていても、母に隠し事などできない。
「・・・だ、誰にも言っちゃダメだよ?
恥ずかしい、んだもん」
「分かってるわ?だって、悠眞ったら恥ずかし屋さんなんだから」
「う~・・・意地悪」
ぷくぅ、と頬を膨らませた。
リスのようで可愛い。愛でたい。愛でまくりたい、と近くを通りがかる男共がそう思う。
だが、時既に遅し。
この子りす(悠眞)は虎(聖人)に捕まえられてしまいました。
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