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第5話

  ざわざわとした空気にすれ違う誰もが俺を見て振り返っているのは、俺の背中に担がれた大きなじんべいザメのぬいぐるみのせいだろう。 戦利品と言うか、コレはもう罰ゲームだ。皆に注目されて、恥ずかしい。 まさか一発で取れるとは思ってなくって、俺も取った後に後悔した。コレ、どうしようと。 約束の時間までの暇潰しだから、欲しいとは思っていても取るつもりは全くなかった。あっても、あのアームの角度から言ってもそういい場所じゃなかったし、大きなじんべいザメのぬいぐるみが置かれていた場所も相当悪かった。 ソレなのに、蓋を開けたらこの有り様だ。店員さんも、店にいた客も大きく目をひんむかせていたけど、驚いた顔じゃない。アレは、大いに憐れんだ目だった。 カウンターにコレが入る袋もなく、郵送するのも入る箱がなかった。諦めて置いて行くしかないと店員さんに言おうとしたら、ちゃんと持って帰って下さいねと言うすごんだ顔をされてしまった。  恐縮する俺はこんな格好で待ち合わせの場所に行きたくはなかったんだけど、店員さんの顔も待ち合わせの時間もどんどんと近付いて来ていてこの選択肢しかなかった。そして、前頭の様に大きなじんべいザメのぬいぐるみを担いで路地を歩けば、注目の的である。 俺が半泣き状態で、大きなじんべいザメのぬいぐるみをぎゅっと抱き締めていたら、 「アレ?君、さっきの…」 そう声を掛けられて顔を上げれば、さっき駅の改札口で切符を買ってくれた男性と再び逢ってしまった。こんな偶然があるのか?と目をしばたたかせていたら、ん?どうかしたの?とやっぱりさっきと同じ様に穏やかな口調で問い掛けて来てくれる。 もう本当に親切な人だな、この人と俺は藁をも掴む思いで、もう少しで約束した時間になるけど、この格好では恥ずかしくって逢えないと背中に担いだ大きなじんべいザメのぬいぐるみをその男性に見せた。同時に、さっきからこの男性には恥ずかしい所ばっかり見せてしまっているなと思った。  

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