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第9話

  海に近い所にある水族館は海の匂いがした。潮風で、少しベタついた感じはするけど、夏ならではの爽やかな感じは嫌いではなかった。 滲む汗も引きこもっていた部屋の中では感じられないモノで、意地を張って引きこもっていた事が馬鹿らしくなるくらい、世界はとても優しかった。 画面上だけの友情だけでも俺は稜ちゃんに救われていたけど、こうして逢ってみても稜ちゃんは稜ちゃんでいいヤツだと感じた。こんな俺でも呆れず、付き合ってくれるのだから。 だから、 「今日は誘ってくれて有り難う。とても楽しかったです」 俺がそうはにかんだ顔でお礼を言う。心からの本音だったのに、稜ちゃんは少し困った顔をした。まだ見て廻っている最中だったから少し気が早かったのかと思ったけど、そうではなかった様だ。 「ソレって、もう今回で終わりって事?」 稜ちゃんが今までにもない真剣な趣でそう俺に訊いて来たからだ。聞き方によってはそう聞こえるけど、稜ちゃんは俺が昨日まで引きこもりだと言う事は知らないハズ。だから、そう言うニュアンスは持たないハズである。 俺は不思議そうに首を傾げて、大袈裟だな、ネットゲーで何時でも逢えるでしょう?と言うと左手首を掴まれた。 俺は力一杯掴まれて唖然としていたら、稜ちゃんがコレからもずっと逢おうと言い出す。何処か必死で、俺も稜ちゃんと逢って色んな話がしたいからいいよと頷いたけど、俺はリア充で居続ける事が可能だろうか?と思えた。 痩せても枯れても武士は武士と言う様に俺は所詮、引きこもり。アラが出るのは、極自然な事だった。 呆れるのはいいけど、幻滅されるのは怖い。幾ら友達でも、心は傷付く。今日だって、もうキャリアオーバーだ。  

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