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第10話
「あの…、コレからも逢うって約束をしたから手離して貰ってイイですか?」
そう言うのは、俺は稜ちゃんに左手首を掴まれた儘ずっと館内を見て廻っているから。この儘ではトイレまで着いて来られそうで怖い。ソレに、大きなじんべいザメのぬいぐるみを担いでいるから、両手は完全に塞がっているから転けたりでもしたらもう最悪である。
ソレなのに、稜ちゃんは鋤かした顔でいけしゃあしゃあとこう言うのだ。
「俺、迷惑?」
と。
コレはもう知能犯。解っててやっている。
だから、ヴっ!!と押し黙るのは勿論、俺。稜ちゃんは俺がこう言う態度に弱いと言う事をこの数時間の間で学んだらしい。
俺は断るにも断れず、渋った顔で「そんな事ないよ」と答えるしか出来なかった。いいヤツなのに、強引だと涙目になっていると、
「夜の八時から花火大会があるらしいよ。折角だから、見に行かない?」
稜ちゃんがそう言って来た。こう言うカバーも然り気無い。稜ちゃんは待合室の扉に貼られたポスターを指差しながら、俺が好きそうなモノをチョイスして来る。
花火大会はお祖父ちゃんと行ったきりだ。引きこもっていたから尚更行った事がない。
「でも、遅くなるよ?俺、門限あるから」
見に行きたいけど、行けないと稜ちゃんに言ったら、
「じゃ、俺ん家に泊まるって事で許可を貰えない?」
母さんにそう電話しろと言う稜ちゃんは少し強引だった。見た目は女の子みたいだけど、中身は歴とした男の子だ。付いているモノもちゃんと付いているから、間違った方向にはいかないだろうと俺はそうしてみると頷いた。
コレが、とんでもない選択肢だったとはこの時は思いもしなかったけど。
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