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第6話

☆逃して下さい☆ 「だから、名前教えて。」 男はずいっと間合いを拳を一つ分まで詰めてくる。 「あっ、はい。」 それは分かっているんだ。 貴方が妙に距離を詰めてくるので半歩だけ足を引く。 どうしようか、俺は男だが現在、不本意とはいえ女の格好をしている。 そして俺の名前は小春という実に女の子オーラ全開で名乗って平気だろうが言いたくはない。 ……よし、決めた。 「私の名前は井上 春です。」 俺が出した答えは偽名だった。 だってこいつとはもう会わないだろうし。 偽名を言ったってバレない、バレない。 実名と漢字一文字しか違わないのはまずかったかな。 でも今の一瞬で思いついたのこれしかなかったから仕方ない。 「井上 春…春ちゃんね。わかった」 …ちゃん付けするなイケメン金髪。 寒気がする。 逆にイケメン金髪よ、顔が赤いぞ。 大丈夫かこいつ…。 はぁー、もう帰りたい。 いや、名前も言ったし帰って良くないか俺? うん、帰ろう。 流石に限界だ、こんな長くイケメンと居て身体が凄い状態になりかけてる。 「あっ、私これから用事あるので失礼します!今日は本当にありがとうございました。この恩は忘れません。それでは!!」 俺は相手の顔も見ず早口で言い、相手の返答も聞かず金髪の男を背に駆け出す。 後ろで金髪の男が何を言っていた気もするが俺は無視して家に向かって走っていった。 金髪の男が俺の背中を見る中、俺にさっきまで向けた笑顔とは違う笑みを浮かべていたことも知らずに。

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