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第25話
☆茶髪の鬼☆
「透はわしみたいに不良ではないからねー。でも透は喧嘩相当強いらしいな」
柴崎がヘラヘラと笑いながら言う。
たしかに柴崎の言うとおりだ。
身長があり、体格が体育会系よりな彼は見た目で間違われることは多々あっても不良ではない。
でも透は高校で上級生の不良に絡まれて一度だけ喧嘩したことがある。
大人数を一人で倒したらしい。
それも見るも無惨といわれる程に。
俺がそれを知ったのは喧嘩があった翌日。
普段は俺と同様に一般人で、喧嘩なんて嫌いだという透がそこまでやるのは何かある、と思って透に理由を尋ねた。
でも透はそれを聞くと「思い出したくない」と言い頑なに答えてくれない。
バカみたいに話をそらし続けるものだから話をしたくないのは嫌でも察せる。
だから俺はその喧嘩について聞くのはやめたのだ。
本人が話してくれるまで待とう、そう思って。
そして後日、透は『茶髪の鬼』と不良達から呼ばれるようになった。
なぜ鬼かというと、騒ぎを聞き付けた先生や2年が喧嘩の場所にいったら鬼の形相した透が倒れた生徒の中心で立っていたかららしい。
それを見た人は透が表情を戻すまで動くことができなかったとも聞いた。
「…俺は喧嘩は強くないし、喧嘩は嫌いだ。それにあの一件から喧嘩はしてないよ。もうその話はやめて欲しい」
透はさっきよりも眉間に皺を寄せて柴崎を睨んだ。
「そうなん?そりゃ残念。いつかわしと喧嘩しよーな」
柴崎はそんな透にビビることなくヘラヘラ笑って返した。
「お断りだ」
「やっぱりかー」
しゃーない、しゃーない。
資料を見終えてかペラペラお札を数えるように遊んでるそんな柴崎を見て透は呆れたのだろう。
睨むのをやめて髪の毛を片手で搔き上げた。
「イライラするのも面倒」
静かに呟きを聞き取れたのは多分、俺だけだと思う。
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