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第33話

☆匂い☆ そもそもの話。 忘年会の罰ゲームみたいな女装をした男に恋するのはどういうことだ。 実はこのイケメン、過去に女と縁がないの。 いや、イケメンなら色とりどりで手を余してましたってか? 嫌味か、怒るぞ。 なんて考えてたら柴崎が口を開いた。 「なぁ、その子の名前ってなんだか、こはるんと一文字違いなんやな」 よ、余計なこというな柴崎! いやー、東条 千秋が俺の方を向いたぁぁぁ! そして近づいてきたよ! 安定のおててが震えます。 ついでに先ほどの寒気も止まりません。 東条 千秋は俺の目の前にきた。 血のように真っ赤な瞳が俺を映しだす。 「へー、そうなんだ。名前なんていうの?」 「い、いの…井上 小春です」 言葉は詰まったが、こはるの「こ」の部分を少しばかり強調して言った。 「井上 小春ね…本当だ。春ちゃんと名前が一文字違う」 だって…俺の実名から一文字取った名前ですもの、そりゃ…ねぇ。 そして東条 千秋。 なんで俺に顔を近づけて匂い嗅いでいるんですか? 昨日の夜にちゃんとお風呂に入ったので臭くはないかと思いますよ。 整えられた顔が間近にあると、イケメンであることを見せつけられる気がしてならない。 匂いを嗅ごうと閉ざした瞼から、睫毛が長いことが分かるし、鼻はスッとしていてアイドルかと問いたくなる。 えー、えー、うっらやましー(棒) まず、胃から何かが登り上がってきてるし、俺の体の安否が不安なるから離れてー。 「どうしたんや、千秋?こはるんの匂いなんて嗅いで」 「なんか、春ちゃんと同じ匂いがする」 あなたのいう『春ちゃん』本人なんだから同じ匂いするに決まってるだろう! 匂い嗅ぐとか本当に異名通り犬だな! 「そうなん?てっきりいつもの匂いフェチかと思うた」 えっ、匂いフェチなの…。 変態じゃん、うわー。 (読者で匂いフェチいたらすみません) 「まぁ、それもある…」 あの、いつまで匂い嗅ぐつもり? 今、顔が青くなってるの気づいてます? 「おい、千秋。初対面のやつの匂い嗅ぎ過ぎ。小春が困ってるだろう」 透が察してくれたのか俺の腰を掴んで引き寄せ、東条 千秋から物理的に離してくれた。 とてもありがたい。 透の腕の中にいるからなのか少しだけ手の震えが止まった気がする。 やっぱり、透だけはこんな近くても拒否反応が起こらないからいいな、安心する。 でも助けてくれたことには感謝してるが、困っているのは誤りで顔が青くなっているが正しい。 そして補足すると東条 千秋とは初対面ではない。 「あっ、そうだね。初対面なのにこんな匂い嗅いだら失礼だよな」 「い、いえ。大丈夫です」 東条 千秋がイケメンスマイルしながら謝ってきた。 「うぇっ…」 日曜の朝7時30分から放送される爽やか系の戦隊モノの主人公のようなキラキラ笑顔は己の身体には合わないらしい。 直視しなかったというのに、軽く嗚咽する。 一番近くにいた透にしかわからないその音を聞いてか、頭上からは「耐えろ」と囁かれた。 あれ?こいつ不良なのにこんな感じなんだ。 もう少し言葉遣いとか酷いと思ってたけどそんなんじゃないし、今の状態を見ると不良には見えない。 たしかに柴崎の言う通り、普通の人だ。 変に不良の偏見を持ってはいけないってことか。 申し訳ない。 と口では言わず心の中で東条 千秋に謝った。

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