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第80話

☆呼び方☆ 「何?」 俺は玄関のドアの取っ手に触れようとした手を下げ、東条 千秋の方へ向き直す。 俺を呼び止めた本人は、 「あのな…」 と言ってから無言になってしまった。 正直、過呼吸なってからもベタベタされてうんざりしてた。 話したくないのだが。 玄関のドアから東条 千秋までの距離は少しあるから幸いまだ拒否反応起こっていない。 「用がないなら帰えるけど」 俺は再び背を向けようとした時に東条 千秋が口を開いた。 「呼び方」 「はぁ?」 呼び方? 「だから俺の呼び方。小春、いつも俺のことを『あんた』って呼んでんだろ」 「そう…なの?」 多分、そうだとしたら無意識だと思う。 気づかなかったから思わず疑問系返してしまった。 「そうなんだよ!透は幼馴染だからあれだが。碧のことは名字だけど『柴崎』って呼んでる。でも…俺だけは『あんた』っ呼ばれてるんだよ」 東条 千秋はそっぽを向きながら言う。 そっぽ向かれてもな…。 俺、いま知ったし。 「そう…なんだ」 だからこういう答え方しかできない。 「だから…『あんた』じゃねぇ呼び方にしてくれねぇか?」 「はぁ…」 『あんた』じゃない呼び方ねぇ…。 うーん………。 「変態」 「うっ…そういうのじゃないのがいいんだが」 しまった。 本音が! 流石にこれはストレート過ぎた。 えーと… 「東条生徒会長」 「なんか、距離感じるんだが!」 こっち的には距離が遠い方が楽だよ。 「あははは、嘘だよ…」 反応が面白いからちょっと意地悪し過ぎた。 だから、今度からこう呼んでやろう。 「東条」 勿論、名字で。 「お、おう。…って、千秋じゃねぇのかよ!」 おっと、東条が照れた。 あはは、気のせい、気のせい。 「だってそこまで親しい仲じゃないし」 なる予定もない。 「……じゃあ、親しい仲になったら呼ぶんだな?」 東条が照れた顔からいきなり真剣な顔でそう言うものだから… 「善処してあげよう」 俺はフフッと笑って返してやった。 「ぜってー、千秋って呼ばせてやるからな」 その時の俺は東条が小声でそう言っていたことを知らない。

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