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「小鳥遊部長自らご指導していただけるなんて嬉しいです。よろしくお願いします」  まさに体育会系だな。大きな肩を揺らしてハキハキと述べる岸本を見つめながらさっそく仕事を振る。ガタイの良さでは自分よりも岸本のほうがでかいのでは、と小鳥遊は観察する。歯並びのいい白い歯はにこやかな印象を受ける。両耳に空いたピアスの穴が、彼のパーソナリティを現している気がする。岸本は大学時代までかなりちゃらい奴だったのかもしれない。フットサルをやっていたと聞くし。足技の上手いやつは性欲も強いという本能的な勘がある。いや、こんなことを考えている場合ではない。小鳥遊は一瞬想像した岸本のバックグラウンドを消して、一息ついた。 「ヤツシロ材建の受注表だ。先月のデータと確認して不備がないかチェックしてくれ。パソコンは事務員に聞けば貸し出してもらえる」 「わかりました。締め切りはいつですか?」  早速メモを取りながらこちらを見上げてくる岸本のつむじを見ながら考える。佐久間と違ってナルトのような丸みを帯びたつむじだと思いながら言う。小鳥遊には人のつむじを見て性格診断ができる能力がある。まあ、母から受け継がれた観察眼だが。 「今日の午後4時までだ。俺が営業先から戻ったらすぐ確認する。やり方がわからなければ近くの先輩に教えてもらえ」 「わかりました。では失礼します」  一礼して研修室を出て行く岸本の背中を見つめる。部屋の前方では社内の内通電話の番号や営業先での名刺の渡し方などを百田が丁寧に教えている。優しい百田先輩の指導を受ける2人は自己紹介のときと打って変わってリラックスしている様子だ。まあまあのスタートラインだな。小鳥遊はキジマ鉄鋼を宣伝するためのコマーシャル制作の打ち合わせのために広報部に向かった。  いい目をしている。  岸本に対する第一印象は合格だった。即戦力になることを予期して上司としての手腕が問われる。

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