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「今度からは無くすなよ」 「すみません。ありがとうございます」  お辞儀をする岸本を置いて早足でフロアから出て行く。エレベーターを待っている間も時計をちらちらと確認する。小鳥遊は遅刻が許せないタイプの人間だった。エントラスに出ると小走りで外に出る。そのまま走って歯医医院の入っているビルに向かう。そのときはまだ重大な忘れ物をしていることに気づいていなかった。 「保険証と診察券をお願いします」  受付の優しげな女性がそう伝えると、小鳥遊はバックに入れていた診察カードと保険証の入ったカードケースを取り出そうとする。しかし、そのケースはどこにもない。  しまった。社に置いてきてしまったか。  受付の女性に謝り1度取りに戻ることにした。幸い次の時間帯の予約がキャンセルで空いたらしく、すぐに診察をしてくれるという。  社に戻るとなぜかまだ明かりがついているのが見えた。訝しみながらも時間もないので自分のデスクの上を探す。しかしどこにも見当たらない。もしやと思って岸本のデスクに向かうと、カードケースがデスクスタンドに収まっていた。小鳥遊が外に出た後で岸本が忘れ物に気づき保管しておいてくれたのかもしれない。ほっとして中身を確認し、さぁ戻ろうと思ったところで運悪く電話が入る。見れば産婦人科の番号だった。なぜこんなときにと思って無視しようと思ったが、緊急のことかもしれないと思い電話に出る。フロアには他の人間の姿はないので、小鳥遊は油断していた。

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