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末広が迅速に変更箇所を伝えたおかげでものの数分で改定されたコマーシャルを確認することができた。小鳥遊が言った通りの場所にキジマ鉄鋼の文字が映る。これなら先方も気を悪くはしないだろうと思ってそのデータが入ったディスクを鞄に詰めて小鳥遊はキジマ鉄鋼に向かった。タクシーの中で目を伏せる。さあ、果たしてどんな反応をするだろうか。
若干の心配はあったものの、コマーシャルの出来に宇津木社長もすぐに頷いてくれたおかげですぐにテレビ局にデータを送ることができた。ここまではスムーズにきたので小鳥遊は緊張していた肩の力をほぐす。あとは午後の企画会議に参加して部長として部下に助言をし、最後に岸本に振った仕事の確認をするだけだ。珍しく緩やかなスケジュールに安堵しながら休憩室でコーヒーを飲む。人は出払っているらしくゆっくりと香りを楽しむことができた。これはグアテマラの豆か。渋いくらいがちょうどいい。小鳥遊はそこまで豆に詳しいわけではないが、休憩のときに飲むとすれば、コーヒーか紅茶、緑茶や水だった。カフェインを取りすぎないよう気をつけながら飲むようにしている。医者がうるさいのがかなわない。
ふと、強い視線を感じて後ろを振り向くと岸本がコピー機の前に立っていた。こちらを黙って見つめてくる岸本を怪訝に思いながらも、無視するわけにもいかないので声をかける。
「どうだ。進み具合は」
やや間があって岸本は静かに頷く。
「はい。先輩に教えていただいたので、あと少しで終わりそうです。他にも何かあれば言ってください」
想像したよりも早く終わるな。小鳥遊はそう予測して、2つ目の仕事を振った。
「部署の倉庫室の掃除を頼む。おまえも資料の場所を確認しておいた方がいいだろう」
「わかりました」
そう言ってすぐに出て行くかと思えば、岸本は直立したまま動かない。どうしたというのだろう。じっとこちらの様子を見ている。
「まだ何かあるのか」
「あ、すみません。他の新人は細かい研修を受けているようなので、なぜ自分はそれがないのかと……」
不安げな視線を寄越した岸本にいささか落胆する。下と比べることほど愚かなことはない。仕事においては。自分は期待されているのだと非言語として理解しなければ、仕事は振られなくなる。
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