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「もしもし、三井産婦人科の四谷と申します」 「はい。小鳥遊です。どういったご用件でしょうか」 「当院では定期的に性病検査と精子の運動状態を見る検査を行っております。何年もご予約がない患者様に診察のご案内をしているのですが、いかがですか?」  なんだ。セールスじみたものじゃないか。小鳥遊は苛々としながら「いいえ」と伝える。すると、電話越しにカタカタとキーボードを押す音が聞こえてきた。 「ご本人の確認のために前回の検査結果の内容をお聞きしてもよろしいですか?」  押しの強い営業だなと思いながらも早く電話を済ませたいので静かな声で伝える。 「無精子症と診断されましたが……もういいですか」 「大変失礼致しました。またなにかありましたらお気軽にご相談ください」  壁時計を見つめて大きくため息をつく。この時間では予約の時間には間に合いそうもない。キャンセルの電話を入れようとしたそのときだった。  チャリンと高い音がフロアに響いたのは。驚いて後ろを振り返ると、フロアの入り口に大きな影が見えた。ゆっくりと床に落とした物を拾うとなぜか小鳥遊の方へ近づいてくる。 「……岸本。まだ帰ってなかったのか」  まさか聞かれていないよなと冷や汗が小鳥遊の背中を伝う。どくんどくんと忙しなく胸が鼓動し始めた。 「部長、アルファなのに種がないってほんとですか」  ああ、終わった。  小鳥遊は薄笑いを浮かべて首を振る。ここは不審に思われても、たとえ信頼を失ってでも嘘をつくしかない。 「昔、一時期そういう病気になっただけだ。今は健康そのものでーー」 「嘘つかないでください」  いつにも増して真剣な目で見つめられ、声が出なくなる。威圧的な瞳が食い入るようにこちらを見つめてくる。

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