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17 脅しの達人

 翌日の朝の朝礼の間も、小鳥遊は岸本の動向に目を光らせていた。出社してから顔を合わせると、昨日のことには全く触れず真面目そうな笑顔で挨拶をしてきた。不気味に思いながらも他の社員が見ているので言葉を返すと、嬉しそうに目を輝かせる。 「小鳥遊。ちょっといいか」  午前の業務を終え社内食堂に向かう途中に百田に呼び止められる。 「岸本のことなんだけど」  ぴくりと体の動きが停止する。岸本。今1番聞きたくない名前だった。 「……岸本がどうかしたのか」 「今日の研修も1番出来が良くてさ。もう実践に持ち込もうと思ってるんだけど、担当のおまえの意見を聞きたくてな」  仕事は真面目にこなすタイプらしい。まるで二重人格のようだと思いながら百田の言葉に頷く。 「俺の元で実践に入ってもらう。岸本の研修は終わりでいい」  そうかと呟いて百田がじっとこちらの顔を伺うように見つめてくる。小鳥遊は眉を寄せた。 「なんだ。無言で見つめられると気分が悪い」  百田はふっと口端を上げた。猫のような笑い方だと小鳥遊は思う。 「岸本に期待してんのかなぁって思っただけ。ビシバシ鍛えてやれよ。それと、俺との勝負忘れるんじゃないぞ」  百田の後ろ姿を見送ってから再び憂鬱な気持ちになる。岸本に弱みを握られてしまって正直平静でいられない。二人きりで仕事に取り組むとなれば、また豹変するかもしれない。仕事中にそんなものに付き合うつもりは毛頭ないのだが、また金をせがまれるのかと思うと気分は晴れなかった。

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