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「はースッキリした」
気分爽快といった風に岸本が呟く。小鳥遊は苛つきながらそれを眺めた。まさかこんなに過激なお願いをされるとは思ってもみなくて、正直気持ちが悪い。明日からこの男とまともに顔を合わせなくてはならないと思うと憂鬱な気分になった。
それから3ヶ月、小鳥遊はほぼ毎日似たような脅しを受けていた。あるときには金を出せ、ハグをしろ、キスをしろ、扱けなど。そのたびに鬱々とした気分で応じていた。岸本は仕事モードに入ると人が変わったようになるので、仕事中はさして気にしなくて済むのだが業務後のそのときだけは嫌な気分になる。優秀で悪質な部下を持った小鳥遊は日々の疲れが溜まってきていた。
そんな折、百田との勝負は小鳥遊の圧勝に終わった。国内随一の大手材木加工会社との契約を取ってきた岸本を、小鳥遊はこの時ばかりは誇らしく思った。
「くっそ。おまえほんとせこいな。岸本が行けば一発で契約取れるって確信してたろ」
悔しそうに奥歯を噛む百田を軽くあしらう。
「別に。たまたま運が良かっただけだろ。じゃあ約束通り週末の飲み会はおまえ持ちだからな」
うわぁっと百田が大袈裟に肩を落とすのを、3人の新人たちは申し訳なさそうに見つめていた。その中に岸本が紛れ込んでいるのが今更ながら恐ろしい。化けの皮を剥いだらとんでもないケダモノがいるのだから、この大人しさには裏があると一体何人の人間が気づけるのだろう。
「じゃあ皆の3ヶ月の奮闘を労います! お疲れ様ー!」
百田の音頭で飲み会が始まった。居酒屋でジョッキを片手に皆で労い合う。百田はすぐに2杯目3杯目を飲んでいる。自分持ちだからとやけになっているらしい。新人たちにとっては上司と関わる初めての飲み会らしく少し緊張しているようだった。
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