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小鳥遊が驚いたのは岸本の緊張している姿だった。ぎこちなくお酌をしてくれるが、その手が微かに震えているのを小鳥遊は見逃さなかった。こんな一面もあるのかと知って少し興味がわいた。完璧そのものだと思っていた部下の意外な一面に百田も笑っていた。そのおかげで空気が柔らかくなり、他の2人も話しやすそうだった。
酔いも深まり悪酔いした百田を背の高い岸本と引きずってタクシーに押し込む。
「小鳥遊〜おやすみ〜」
ぶんぶんと大きく手を振る百田を遠い目で見つめながら他の3人に解散を告げる。岸本以外の2人はすぐに駅に向かっていったが、1人だけぽつんとその場に立ち尽くす姿を見て小鳥遊は違和感を覚える。目が虚ろでふらついている岸本の肩を支えると、酔いが回ったのかしんどそうに目を伏せていた。
「おい。大丈夫か」
「すみません、酒は得意じゃなくて……」
急にか弱い雰囲気を醸し出す岸本に驚きつつも、少し休憩していくかと馴染みのカフェに連れていく。夜遅くも開店しているそこは人のいいマスター目当てでサラリーマンから主婦、老夫婦まで幅広い年代の客で賑わっていた。1番静かそうな隅のテーブルにつくと岸本は大きなため息をついた。目元が赤く染まっている。本当に酒に弱いらしい。マスターにおしぼりとお冷をもらって岸本に差し出した。
「ありがとうございます」
「楽になるまでここに座ってろ」
いつもの岸本らしくない姿になぜか心がざわめき出す。大きなガタイがやけに頼りなく見えた。
「すみません……ちょっとお手洗いに」
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