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「おまえが約束を守るならそうしてやる」 「……ずいぶんと優しいんですね」 「俺はおまえの遊びに付き合ってやれるほど暇じゃないんでな」 「残念です。せっかく楽しめると思っていたのに」  憎らしい笑みを浮かべる岸本を見下ろす。今は俺が有利だ。一気にたたみかける。 「うちで昇進したいんだろう? 今のうちに上司に恩を売っておくのも大事だとは思わないか」  我ながら酷いことを言っていると思う。しかし自らの秘密を暴かれるくらいならここまで脅した方がいい。岸本はしばらく黙っていたが、観念したようにベッドに正座をした。 「……わかりました。小鳥遊部長の秘密は死んでも他言しません」 「取引成立だな。じゃあ俺は帰る」  話は終わったと言わんばかりに突き放すと、岸本は大きな体を縮こませてこちらを見つめてくる。 「もう帰っちゃうんですか」  迷子の子どものような目で見るな。  小鳥遊はうんざりしてため息をつく。一度しっかり言っておかなくてはならない。 「いいか。俺は上司でおまえは部下だ。友達じゃない。これ以上俺の生活圏に入ってくるな」 「……そんな言い方しなくてもいいじゃないですか。可愛い部下でしょう?」  急にしおらしくなって岸本は肩を落とす。固い殻を破ったかのような繊細な一面を見せる岸本に目を奪われてしまう。 「もう2度と脅すな。これからはお互い一線を引いて仕事に取り組むのがいい」 「……わかりました。もう脅しません」  忠犬のようにこちらを見つめてくる岸本から目線を外しカードキーを手渡す。そのまま後ろを振り返りもせずにホテルを後にした。

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