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 じりじりと近づいてくる岸本を手で制する。 「じゃあ行きましょうか」  そう言って半ば強制的に岸本の後をついていく。繁華街とは別方向の電車に乗り込むとある駅で降りた。そこは住宅街が広がる小さな駅だった。こんなところに飯屋があるのかと思っていると小さな小道に入っていく。だんだんと電灯の数が少なくなり空は暗く染まっていく。 「ちょっとスーパー寄ってもいいですか?」 「……まさかおまえ自分の家で作る気か」 「今日は常日頃からお世話になっている部長をもてなしたいだけです」  人懐っこい笑みを浮かべながら小鳥遊はスーパーの店先に走っていく。買い物に付き合う気はさらさらないので外のベンチで座って待つことにした。  まったく俺もどこまで従順なんだか。部下の家に入るなんてこと今まで1度もなかった。唯一、同期の百田の家には宅飲みする際に行ったことはあったが……。  小鳥遊は深くため息をついて夜空を見上げた。星ひとつ見えない都会の狭い空は今日も濁っているように見える。それがまた小鳥遊の気分を落としていく。  買い物袋を下げた岸本が小走りでこちらに向かってくる。 「すみません。特売日だったんでどうしても今日行きたくて」  弾む息を抑えながら岸本が話しかけてくる。小鳥遊はそれをそっけなく頷いて返した。  岸本の住むアパートはオートロック付きのそこそこいい家だった。3階の角部屋に住んでいるのだという。社会人になりたての頃はこんな家に住んでいたなと小鳥遊は思い出す。  狭い玄関に通されて渋々靴を脱いだ。システムキッチンの横を通り抜けると、6畳のリビングが出迎えてくれる。その奥にはベッドの置いてある小部屋が続いていた。

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