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「……美味い」
思わず口から漏れた言葉を岸本は「ほんとですか」と食い気味に聞いてくる。軽く頷くとほっとしたように頬を緩ませた。
「ごちそうさん」
せめて洗い物でもするのが客人のマナーなのだろうが、勝手に連れてきたのは岸本なので小鳥遊は床の上にあぐらをかいて座っていた。
洗い物を終えた岸本が冷蔵庫から缶ビールを持ってくる。
「このステンレスのグラスがすごくいいんですよ」
と、わざわざグラスに注いで持ってきた。白い泡の立つグラスを傾け中のものを飲み干す。疲れた体に酒が染みていく。
俺を酔わせて話に持ち込むつもりか。だが甘いな岸本。俺は酒には強いほうだ。
ぐっと煽るようにして2杯目を飲み干す。少し驚いたように岸本は目を見開いたが、すぐにいつもの表情に戻る。
「お酒強いんですね、部長」
「まあな。おまえはノンアルか?」
「そうですね」
見た目は変わらないのになと岸本のグラスを覗き込む。自然と距離が近くなって岸本は息を詰めた。
それから30分ほどたって、小鳥遊の身にある異変が起こり始める。疲れのせいかまた強い眠気が襲ってきたのだ。テーブルに肘をついてなんとか耐えるが、眠気は一向に治る気配がない。
「部長? 大丈夫ですか」
岸本も異変に気づいたのか甲斐甲斐しくベッドまで運んでくれる。ふらふらと眩暈がして小鳥遊は頭を抱えた。
「悪いな……しばらく仮眠させてくれないか。1時間でいい」
我ながら無茶なお願いだと思う。しかし岸本はなぜか嬉しそうに快諾した。眠りに落ちる直前、「馬鹿だなぁ」と低い声で呟く岸本の声が聞こえたような気がした。
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