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「おまえは優秀な部下だ。そこまで自分を卑下するようなことを言うな」
しばらく間ができて岸本は顔をくしゃくしゃにさせて泣き出した。男泣きというより子どものような泣き方だと小鳥遊は思う。手のかかる部下だと思いながらそっとその肩に手を置いた。
「うっ……ぇ……う」
大泣きする岸本は膝から崩れ落ちるようにして小鳥遊の肩に顔を埋めた。肩が涙や鼻水で濡れていくのも不思議と気にならなかった。なんとなく背中をとんとんと叩いてやるとまた大声で泣き出すものだから、どうしたものかと頭を悩ませる。
「すみません……」
たっぷり10分ほど泣き終えた岸本が申し訳なさそうに謝る。小鳥遊はティッシュを手渡しながら言った。
「俺には不都合はないがおまえのほうは心配じゃないか? もし俺が他のオメガに浮気なんかしたらおまえは一生他のやつとは添い遂げられないんだぞ」
「……運命の番とかそういうの信じてませんから、俺。それに今は仕事を優先して考えたいんです」
岸本の意思は固いようだった。小鳥遊は目の前で番になることを申し込んできた若者をもう一度よく見つめる。もし番になったとして、その関係はいったいなんと呼ぶのだろう。ビジネス番とでも言うのだろうか。小鳥遊が苦手な家事手伝いをしてくれるというのは非常に助かるし料理の腕も悪くない。優秀な部下を永久的に自分の手元に置けるのは大きかった。課長の言っていたように岸本の評価が高くなればなるほど小鳥遊に昇進の機会が増える。
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